「なんだ、突拍子もなく。」
予想外の話題に拍子抜けしたのか、真田は怪訝そうに眉を顰めた。
「だが、そうだな…。
幼い頃、祖父の部屋で古いまじないの本を盗み見たことがあるな。」
「えっ、ほんとにあるのかよ。」
思いの外、あてがあったことに丸井は驚いた。
そんなものあるわけがないだろうと鼻で笑われてもおかしくないと思っていたからだ。
真田は続ける。
「手順は忘れたが、特定の動作と何かの文言を言うのだったように思う。
それがどうかしたのか。」
「俺さ、もう記憶を改竄されたとしか思えねぇのよ。
最近色々あって…いや、何今更笑ってんだよ。
俺は真面目に話してんの!」
真剣な顔で記憶を改竄されたと主張する丸井に、真田は堪えきれず笑い出した。
そういえば、真田を笑わせたことってあんまりなかったかもしれない。
いや、ウケ狙って言ったんじゃねえんだけど。
彼は少し呼吸を整えると、ばつが悪そうに咳払いをした。
「…すまない。あまり現実的に思えなかったものでな。」
「まあ、そうだわな…。」
「だが、さっきのまじないの内容は本当だ。
効果があるかまでは分からないが。」
真田は丸井の目をまっすぐに見た。
「その真偽次第で、お前の進む道が決まるのか?」
「…いや。
聞いといてなんだけどさ、結局やることは変わんねえのかも。」
俺はもう一度、あいつに会わなきゃなんねぇ。
もし本当に記憶が消されていても、そうでなくても、それだけは確かだ。
「なら進むのみだろう。
…食事だけは、しっかり摂っておけ。」
真田はそれだけ言うと、立ち上がって去っていった。
「誰に言ってんだ。任せとけっての。」
真田は背を向けたまま、片手を上げて返事をした。
大丈夫だ。多分、あともう少し。
丸井の勘がそう告げている。
心に空く穴に、そこにあった何かに、たどり着く日はそう遠くないはずだ。