季節は巡り、丸井と聖良が付き合ってから1年が経とうとしていた。
春の足音がもう近い。
聖良は丸井を待つ間、これまで作ったたくさんの楽しい思い出を振り返る。
ボウリングに、水族館。カフェでおしゃべりもたくさんした。
そういえば、ブン太くんがお気に入りのドーナツがあるカフェには最近行けてなかったな。
なんて考えながらベンチに座っていると、丸井がやってきた。
聖良を見つけると嬉しそうに笑って手を振ってくれる。
大好きなその笑顔に、これから伝える言葉に、聖良は胸が苦しくなるのを感じた。
立ち上がって丸井と向き合い、一度深く呼吸してから言葉を紡ぐ。
少し緩い風が2人の間を通り過ぎた。
「ブン太くん。別れよう。」
「え…?」
その悲しそうな表情に、聖良は罪悪感で押しつぶされそうだった。
「…嘘だろ?」
「嘘じゃないよ。
私、結婚の約束をした人がいるの。
だからブン太くんとは一緒にいられない。」
聖良が両親からそう告げられたのはほんの数日前のことだった。
婚約を取り消そうとも考えたが、彼女の両親はそれを許さなかった。
「急になんだよそれ…。」
丸井がそう言うのも当然だ。
自分でだって、まだ事実を受け入れられてなくて頭の中がぐちゃぐちゃなのに。
聖良の戸惑いを見透かしたように、丸井はぎゅっと彼女を抱き寄せた。
彼の温かさに包まれて、緩んだ聖良の目から涙が溢れて丸井の服を濡らした。
「ほらみろ、お前も納得してねえじゃん。
強がってんじゃねえよ。」
丸井は聖良の背中をあやすようにさすってくれた。