「ジャッカル、やっっ…と来たな。」
ジャッカルと約束していたのは、学校帰りに寄れる場所にあるカフェだった。
ジャッカルは丸井を見つけると、頭を掻きながら向かいの席に座った。
「わりぃ、日直で色々頼まれちまって。
ってお前、もう一服済んでるのかよ。」
ジャッカルは丸井の前に置かれた空のパフェグラスを見て、呆れたように言った。
「ったりめーだろ。腹ペコで待ってられるかよ。
俺が食ったのは〜…あ、これこれ。
なかなか美味かったぜぃ。」
指さしたのは苺のたっぷり乗ったミニパフェ。
甘酸っぱい苺とその下に詰められたカステラのふわふわ食感、最高だったなあ…とか思うとまた腹が減る。
「確かにブン太が好きそうな感じだな。
俺は…おっ、レモンスカッシュがあるのか。」
「あ、俺も気になってたんだよ。
んじゃそれ2個頼もうぜ。」
丸井が注文を済ませると、ジャッカルは鞄からノートを取り出しテーブルに広げた。
丸井も手元にあったシャーペンを握る。
今日は勉強会だ。
ジャッカルはダブルスパートナーとしてだけじゃなく、勉強でも頼りになる。
成績は柳や柳生に敵わないけど、気楽だからついつい頼ってしまうことが多かった。
「明日あたるのここなんだけどさ、お前んとこもうこのページ終わってるだろ?
この文の訳がいまいちピンとこなくてさ。」
「ああ、そこなら…。ちょっと待ってろ。
確かこっちの方に…。」
ジャッカルが自分のノートをめくっている間、丸井はふと窓の外に視線をやった。
10月の夕方は少し肌寒いが、日中との寒暖差が大きい。
行き交う人たちはコートを着ていたり薄手の長袖だったりする。
その時、人混みに混じって通り過ぎた一人の女子に何故か目が留まった。
見たところ、年齢は同世代くらいか。
こっちを向いていた訳でもないのに、視界を横切るその数秒間どうしても目を離すことができなかった。
ストレートの髪をさらりと靡かせて歩く、大人びた横顔が印象に残った。
「ブン太?」
ジャッカルの声にはっと我に返った丸井は、自分が彼女を目で追っていたことをようやく自覚した。
知り合いでも無いのに、どうしてこんなに気になるのか自分でもわからない。
好みのタイプとか、そんなことでもない。
ただ、彼女の横顔が鮮明に脳裏に焼き付いて離れなかった。
「…あ、ああ。ごめんごめん。
それで、どうだっけ?」
丸井はジャッカルに笑いかけると、ノートに視線を戻した。
ジャッカルは首を傾げたが、それ以上は何も聞かなかった。
「ここの訳し方ができるようになれって言ってたぜ。
テストにも似たようなの出すってさ。」
レモンスカッシュが2つ運ばれてきたので、何かを誤魔化すようにそれを一口飲んでみる。
舌の上で弾ける炭酸と、レモンの酸味が動揺した心を現実に少し引き戻した。