学校を出て、駅前の商店街へ向かって歩く。
アーケードが見えたところで、交差点を右に曲がると小さなカフェがあった。
素朴なドーナツが美味しいその店は、静かで落ち着けるお気に入りスポットだ。
ドアを開けると「お好きな席へどうぞ」と奥から声がした。
(…あれ。今日は空いてねえか。)
入って左の奥から2番目が丸井のいつもの席なのだが、今日は先客がいるようだった。
仕方なくその横の席に座ろうとした時、偶然顔を上げたその人と目が合った。
「あっ!」
思わず声を上げた丸井に、相手は目をぱちくりさせた。
座っていたのは、この前ジャッカルと行った店で外を歩いていた少女だった。
以前見かけた時と違って、今日は制服を着ている。
姿を見たのはもう2週間以上前の話なのだが、何故か鮮明に外見を記憶していたのですぐに分かった。
「?」
もちろん面識など無いし、丸井が一方的に見かけたことなど知らない彼女は不思議そうにしている。
すごい不審者みたいじゃねえか、俺。
そう思いながらも、思いっきり目を合わせて声を上げてしまった手前、無視する訳にもいかなかった。
「あー、えっと…もし良かったら、そこ座っていい?
俺、いつもその席なんだ。」
自分でも下手くそなナンパにしか思えない。
彼女はくすっと笑った。
よく見たら整った顔立ちで、笑うと可愛い。
何かほっとする笑顔だと思った。
「いいよ。ごめんね、君の席とは知らずに。」
「いやいや、全然いいぜ。サンキューな。」
丸井は彼女の向かいに座り、いつものようにドーナツとオレンジジュースを注文した。