「そういえば、昨日夢をみたんだけど。」
部活終わり、幸村が何の脈絡もなくそんなことを言い出した。
「レギュラーのみんなが2グループに分かれて、歌でCDデビューするんだ。
グループ名は…なんだったかな、忘れたけど。
若いのと老け顔みたいな分け方されてて、俺何故か老け顔の方にカテゴライズされてたんだよね。」
不服そうに眉間に皺を寄せる幸村に、丸井は思わずふきだした。
「老け顔って。てかそれ、絶対真田リーダーだろぃ。」
「あたり。
あとのメンバーは蓮二と…ジャッカルだったかな。
でもね、なかなかいい曲歌うんだよ。これが。」
「マジで。歌ってよ。」
そういえば、幸村が歌ってるところをあまり見た覚えがなかった。
「それが思い出せないんだ。残念だよね。
丸井にも是非聴いて欲しかったんだけど。」
意外にもノリノリな幸村にちょっと驚いた。
今度みんなでカラオケ行くのも楽しいかもしんねぇな。
「あ、そういえば俺もよく見る夢があるんだよな。
…って言っても、内容は全然思い出せねえんだけど。」
「へえ。いつも同じ夢なのかい?」
「多分な。なんか公園にいたような気がする、くらいしかわかんねえけど。」
幸村はスマホで検索をかけると、顎に手を当ててふむふむと頷いた。
「なるほど…。
同じ夢を何度も見る原因に、心の傷がまだ解決してないっていうのがあるみたいだよ。」
そう言って幸村がこちらに画面を向ける。
「思春期はストレスを上手く処理できなくて、同じ夢を見やすい…ねえ。
ストレスっつってもなあ。何の心当たりもねえよ。」
実際、夢の内容を殆ど覚えていないので、過去の実体験と関連しているかなんて分かるはずもない。
「確かにあんまり悩んでるイメージはないかな。
でも丸井って、意外と考えてるよね。」
「意外は失礼だろぃ。」
幸村くんはほんと、笑顔で一言余計なんだよな。
それにしても、心の傷、ねえ…。
何かひっかかる気はするのに、いくら考えても答えには辿りつかなかった。
「まあ、もう忘れてるならそのほうが幸せじゃないか。
夢に見るほど辛い思いをしたなら。」
「…ああ、そうだな。」
穏やかに笑う幸村は、少し前まで闘病生活を送っていた。
見事な回復を遂げた彼だが、苦しかった時のことを忘れることなどこの先ないのだろう。
だから幸村にそう言われると、そう思うしかないような気がする。
この空白にあったものが辛い記憶だったなら、思い出しても俺は幸せにはなれないのかもしれない。