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バレンタイン。あちらこちらから甘い匂いがしてくる。
もちろん名前もその中のひとりではいる。

渡せるわけがないと思いながらも、昨日学校帰りにチョコを購入してしまった。渡したい、けれども渡せない。チョコを買ってから、名前の頭の中はずっとその事だけが回っていた。

朝の下駄箱は凄かった。
右には東堂、左には新開。それぞれの周りにはたくさんの女子達。それを見た名前は、荒北ももう誰かから貰っているのだろうかと少し不安になる。

教室でも男女共にみんないつもよりソワソワした空気が出ていた。

「おはよ、名前。」
「おはよう。」
「朝からあっちこっち凄いね。」
「ほんとにね。」
「名前は、持ってきたの?」
「うーん。」
「ははっ、がんばれぇー。」

面白そうに笑いながら友達は席に着いた。

すでに座っている荒北の席をチラリと見る。いつものカバン以外に紙袋などは見当たらない事に少しほっとする。でももしかしてカバンの中に入っているのではとも考えるとモヤモヤしてしまう。もし貰っても義理だったらいいな、なんて失礼な考えまでしてしまう。

「苗字さん、チョコ持ってる?」

逆の隣の席の男子に声かけられる。

「えっ!…なんで?」
「いやー、どんなチョコでもいいから苗字さんから貰えたら嬉しいなーと思って。」

と冗談めいた笑顔で言ってくる。

「残念、今日は何もお菓子持ってきてないんだ。」
「えー、なぁーんだ、残念ー。」
「でも、チョコ貰えてるみたいだね。」
「えっ?」
「机の中の、それチョコでしょ?」

とリボンのような物が机の中からほんの少しだけ見えているのを指しながら言うと、今まで気がつかなかったのか、机の中をのぞきチョコを手にし感激している。

「おい、荒北見ろよ!俺、チョコ貰えたぞ!羨ましいか!」
「ハイハイ、ヨカッタネ。」
「やらねーぞ!」
「うっせー、いらねーヨ!」

間に挟まれている名前は、そこで荒北にチョコ貰ってるのか聞いてくれと心の中で思ったが、彼はもちろん気がつかない。





「結局渡せずに終わったなぁ。」

日頃のお礼って事で軽く渡すか、いやお礼って話してもないのに、なんのお礼だと思われる。さらに恥ずかしがって渡すものなら、絶対に好意がある事がバレてしまう。未だに目すら合わせない相手から好意ってキモがられるだろう。そんな事をずっと考えていたら、1日が終わってしまった。
放課後、人もまばらになった教室内。荒北は、授業が終わるとさっさと部活に行ってしまった。
珍しくモジモジとしている名前を見て、友達には、へたれと笑われた。




2019.12.20


monoGatari