19
「暑い!」
「焼ける!」
今日はクラスみんなで海に来ている。
数日前の事だった。
「夏だし、みんなで海行こーぜー!」
とクラスの男子が言うと、出席者の紙が教室の後ろに貼られた。
「海か、いいな。名前ちゃんは行くのか?」
いつも通り、新開は何か口に入れながら聞いてくる。
「新開くん、食べカス。」
とズボンを指すと、うわっと言って払っている。
「行きたいなとも思うけど、どうしようかな。新開くんは部活?」
「いや、この日は休養日だから行きたいなと思って。」
「そうなんだ。」
「靖友も行くし、名前ちゃんも行かないか?」
「…オイ、オレ行くなんて言ってねーケドォ?」
「えー行こうよー靖友ぉ、夏だぞー。」
「めんどくせーし、あちィーし、やだヨ。」
「行きたい行きたい行きたい行きたい。」
「うっぜー!」
「靖友が行くって言うまで言い続けてやる。」
荒北と新開がじゃれ始めたので、名前は席を立ち友達のところに聞きに行く。
「海、部活だから行かない?」
「ううん、休みだから行ける。名前行くなら行こうかと思ってる。」
「せっかくだし行こうか!」
席に戻るとまだ荒北と新開はじゃれ合っていた。
翌日の放課後、友達は部活の為、兄の彼女に付き合ってもらい新しい水着も購入した。
「これで男もイチコロよ。」
「普通の水着がいい。」
「ちぇー、これすっごいセクシーなんだけどなぁ。」
「ちょいちょい言葉が古いよね。」
ギャイギャイ言いながらも、可愛らしい水着を購入した。
そして当日。
「今日、荒北来るの?」
「分かんない、昨日までは名前書かれてなかった。」
前日まで荒北の名前はなかったので、来ないのかと少し残念に思っていた。
「あっ、新開くん達きたー!」
クラスの女子がキャッキャする声が聞こえ、そちらを見ると新開と同じクラスの自転車部の男子に混じって、怠そうに歩く荒北の姿が見えた。
「荒北いるじゃん。うわっ、機嫌悪そー。」
みんな各々ビーチバレーをしたり、水鉄砲で遊んだりしている。
「名前、泳げる?」
「泳げないから、浮き輪持ってきた。」
「おっ、私も持ってきたから浮かびに行こー。」
ふたりでのんびりと浮いていると、男子に水をかけられる遊ばれる。
「わっ!」
「苗字さん、かーわいー!」
「ちょっ、水かけすぎ!」
と遊んでいると、後ろからもの凄い勢いで浮き輪が引っ張られる。
「ぎゃっ!」
隣のにいた友達も同じように引っ張られ、浮き輪にしがみついている。なんとか顔を後ろに向けると、荒北が浮き輪を引っ張って泳いでいた。友達の方は新開が引っ張っている。何事かと思っていると、やっと止まった。
「よォーし!ペプシィー!」
「あぁー負けたー。」
息切れも特にしてない男ふたりと違い、なぜかゼーゼーと息切れする名前達。
「おい、こら。いきなりで驚くでしょーが。」
と友達が新開を叩く。
「ごめん、ごめん、ちょうどよかったから。」
「何がちょーどいいんだ。」
今度は海の中で足蹴りをしている。
「驚いた。」
「ハッ、楽しかったろ?」
「いきなりすぎでしょ。早すぎだし。」
「そんな早くねーよ。オイ、新開!ペプシ買いにいくぞ!」
「あぁ。腹も減ったな。名前ちゃん達もメシ買いに行くか?」
そろそろお昼の時間なので、一緒に買いに行く事にした。
「焼きそば、たこ焼き、イカ焼き…。」
「オメェ、どんだけ食う気だよ。」
「えー、腹減ったじゃん。」
新開は、あちこちのお店に寄っては、食べ物を買っていく。
「オイ、アイツは?」
ふと名前がいない事に気が付いた荒北。
「えっ、名前は?どこ?」
慌て始める3人。
その頃名前は
「あっ、はぐれた。なぜ…。」
携帯で連絡しようと手を伸ばすも、持ち歩いてない事に気がつく。辺りを見渡しても荒北達は見えない代わりに、きっと目が合ってはいけない人達と目が合ってしまった。
ニヤニヤとした気持ちの悪い笑顔で近づいてくる男達。
「どうしたのー?」
急いで体ごと向きを変えて去ろうとしたが遅かった。
「どうもしてません。」
「誰か探してるのー?一緒に探してあげようか?」
「大丈夫です。戻るので。」
「誰と来てるの?一緒に遊ぼうよ。」
「いっぱいいるので結構です。」
あぁ、これは良くない展開だと、こんな姿また荒北にみられたら呆れられてしまうと思い、なんとかこの場から立ち去ろうとした。
「あっ、名前ちゃんみっけ。」
名前は頭にポンと乗る手と声に振り向くと、新開がにこにこと笑っている。
「新開くん。」
「良かった、すぐに見つかって。」
「ごめん、気が付いたらみんないなくて。」
新開はチラッと名前に声をかけてた男達を見る。
「で、この人達は、おめさんの知り合いか?」
「知らない人。」
「ふーん。じゃぁ行くか。靖友達探し回ってるぞ。」
そう言い、新開は名前の肩を抱き歩き始めた。しばらく歩いてから、
「もう大丈夫だな。こんな姿あいつに見られたら殺されちまう。」
と笑いながら肩から手を離した。
「新開くん、ごめんね。ありがとう。」
ははっと笑っていると
「おっ、来たぞ。」
と新開は前を指差す。そちらを見ると鬼の形相で走ってくる荒北がいる。
「よぉ、靖友。名前ちゃん、ナンパされてたけど無事だぞ。」
なんて事を言ってくれるんだという顔で名前は新開を見る。怖くて荒北の顔が見れないでいると、
「お前は……危機感を持てヨ!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…。」
謝ることしか出来ない名前はもう一度新開を見ると、新開は面白そうに笑っていて恨みたい気持ちになった。
「あっ、でもね、前にお兄ちゃんから護身術教わったんだよ。だから、もう大丈夫です。」
「役立ったことあんのォ?」
「まだ使った事はない。」
「この…バァカチャンがっ!」
と盛大なため息をつかれ、歩いて戻っていく。
「新開くんのせいだ。」
名前は荒北の後ろについて歩きながら恨めしそうな顔で新開を見るも全く気にする様子はない。
「ははっ、ごめんよ。」
「楽しんでるでしょ。」
「少しな。でも名前ちゃんいない事に気が付いた時の靖友、凄い慌ててたんだぞ。」
「うん、それは、本当ごめん。」
あの鬼の形相を見れば、嫌でも分かる。
「もしかして、高1の頃校門で靖友が助けたのって、名前ちゃん?」
「えっ?ん?……あぁ、うん。たぶん私。」
「そっか、やっぱり名前ちゃんか。」
「荒北くんに聞いたの?」
「いや、偶然俺と尽八で見てたんだよ。」
そっか、名前ちゃんかと新開はひとり何かを納得しているようだった。
2020.01.06