20
「お祭り行きたい。」
「部活終わってからで良ければ一緒に行く?」
「彼氏は行かないの?」
「うん、たぶん無理だと思う。」
「それなら、お願いします!」
「はいはい。」
名前は珍しく友達に自分から誘っていた。
「珍しいね、そんな行きたがるなんて。」
「無性にりんご飴が食べたいの。」
「ほう。食べ方下手だとベッタベタになるよね。」
それ分かると名前も頷く。
「なになに、お祭り行くの?」
「そう。」
「俺らも行くんだけど、一緒に行かねぇ?」
名前は面倒くさいから嫌だという気持ちを表情にしっかりと出ているが、声をかけてきた男子達は気が付かないふりをして話を進める。同じクラスの人だから、あまり無下に出来ないが、一緒には行きたくない。あっ、と先日みたドラマのワンシーンを思い出した。
「今年の夏祭りは、どうしても女の子同士で行きたいなと思ってるから。ごめんね。」
顔の前で手を合わせて笑うというポーズをとってみた。ただし笑うところが、あからさまに引きつってしまったが。
すると、効果は抜群だったようで、
「そっか、いいよいいよ、お祭りで会ったら声かけるよ。」
とデレデレとした顔で離れていった。
「……なにそれ。どこで覚えたの?」
「ドラマでぶりっ子少女がやってんの見た。」
「鳥肌たった。」
「えっ、上手に出来てた?」
「キモくて。」
もう二度とやらないと名前は決めた。
「おめさん達、祭り行くのか?」
席に戻ると新開くんに聞かれた。
「うん。楽しみ。新開くん達は?」
「どうだろうな、行くとしても部活後だな。」
「そっか、でも新開くん行きたいんじゃない?出店いっぱいだよー。」
よく分かってるなとバキュンポーズをする。
「荒北くんもお祭り行きたい?」
後ろを向いて荒北に声をかける。
「あぁ?」
「やっぱり面倒くさい?」
「よく分かってんじゃナァイ。」
「出店あるよ。」
「人が多すぎんだヨ。」
「浴衣美人いるかもよ。」
「ハッ。」
それこそどうでもいいという顔を荒北はしている。
「名前ちゃんは、浴衣着るのか?」
「持ってない。」
「もったいないなぁ。」
「着崩れするのも嫌だし、食べ物も食べにくいし。」
「あぁ、食べにくいのは問題だな。」
でも新開ほどは食べないからと言いたくなった。
お祭り当日、友達が部活が終わる時間に合わせて、学校に向かった。当たり前だが、口煩い兄と可愛い彼女が付き添いで送ってくれる。
「帰るとき、連絡するんだぞ。」
「大丈夫だから!」
そんな事より、彼女とお祭りを楽しめと言えば、
「ダーメ!私も心配になるから、必ず連絡する事!」
と彼女にもピシャリと言われてしまう。
「二人とも過保護過ぎ。」
友達と合流し、二人でお祭りに向かう。
「すごいね、人だらけ。」
「名前、お願いだからはぐれないでよね。」
「頑張ります。だから手を繋いでて下さい。」
二人は繋いだ手をぶんぶんと振りながら楽しく出店を見て回った。
「こうやって見ると、いっぱい買いたくなっちゃうね。」
「名前、無駄遣いはしないようにね。」
「…ママかよ!」
「こんな美人を産んだ覚えはありません。」
「わぁ、ありがとう。あっ、りんご飴!」
「ちょっと、手を離さない!」
出店のりんご飴を見つけ名前は小走りで向かい、ドンッと人にぶつかってしまう。
「すみません。」
「いえ、こちらこそすみません。…福富くん?」
「むっ?ああ、確か…。」
「苗字です。」
ぶつかってしまった相手は福富だった。
「苗字は、ひとりか?」
「ううん、友達と一緒。」
「そうか。」
「福富くんは?」
「あっちに、新開達がいる。」
そう言って、福富が向けた顔の方を見ると、すでに抱えきれない程の食べ物を持った新開が見えた。
「わっ、新開くん、すごいね。」
「あれ、福富もお祭り来たんだ。何買うの?」
友達も福富に気が付き、声をかける。
「俺は、りんご飴だ。」
まさかのりんご飴に、思わず可愛いといってしまいそうになるのを飲み込む。
「そうなんだ、私も同じ。」
「そうか。では、買おう。」
二人がりんご飴を買っていると
「福ちゃん、買ったァ?」
荒北、新開の二人が近づいてきた。
「荒北くん、来たんだね。」
「あ?おぉ、オメェらもいたのか。」
「あれっ?東堂くんは?」
「アイツは、あっちでもみくちゃ中。」
「あははっ、さすがだね。」
荒北は、あんなバカチューシャのどこがいいんだかとうんざりした顔をしている。
「お前も、絡まれねェーように、気ィーつけろよな。」
と名前は荒北に言われる。
「何度も言うけど、護身術あるから。」
「ハッ、役立たねェーやつなァ。」
このやろう、その笑顔にドキッとしちゃうじゃないかと名前は顔をそらす。
「おめさん達、このあと花火見るのか?」
「うん、そのつもり。」
「俺達もこれから花火で移動するけど、一緒に行くか?」
名前と新開が話す横で、荒北と友達がコソコソ話をしている。
「あんたさぁ、名前が心配なら一緒に回ってあげればいいじゃん。」
「ばっ!テメェ何言ってんだヨ!別に、心配なんかしてねェーよ。」
「へぇー、ふぅーん。」
「ねぇ、新開くんが花火一緒にどうって言ってくれたんだけど、どうかな?」
「どこで見るの?」
「あっちの裏の公園。人が少ねぇらしいんだ。」
「じゃぁ一緒にお願いね。」
「よかったね、名前と一緒に見れて。」
友達がそう荒北にこっそり言えば、チッと舌打ちだけ打つ荒北。
「何?どうしたの?」
と名前が荒北に聞くも
「んでもねェーヨ!」
と顔をプイッと逸らされてしまった。
花火開始前に、なんとかもみくちゃにされていた東堂も合流し、公園で買った食べ物や飲み物を広げていると、
「ごめん、彼氏今こっちに着いたみたいで…。」
と友達が申し訳なさそうにしている。
「良かったね、花火間に合って。私はみんないるから大丈夫だよ。」
友達は、本当にごめんね、と名前に言って立ち上がり、荒北に一声かけてから彼氏の元へと向かった。
新開が言う通り、花火が始まっても公園にはほとんど人は集まらず、ゆっくりと楽しむ事が出来た。
「あー楽しかった。」
「本当にな。腹もいっぱいだ。」
そうお腹を摩る新開だが、やはりまだ口には何か入っている。
「よし、帰るか。」
東堂がそう言い立ち上がる。
「途中からお邪魔しちゃってごめんね。」
「いや、名前ちゃん誘ったの俺だしね。楽しかったよ。」
「ありがとう、じゃぁ、また夏休み明けに。」
みんなと別れ、面倒くさいと思いながらも兄へ連絡する為に携帯を出した名前に後ろから声がかかる。
「オイ。」
そう言うと肩を掴まれた。
「わっ、何?荒北くん?」
「……チッ、送る。」
「はっ?」
「お前の、友達に言われてんだよ。」
「帰り、絶対危ないから、名前送ってあげて。頼んだからね。」
そうか帰り際、荒北に声をかけたのはこの事だったのかと思った。兄に言えば迎えに来てくれるので少しだけ悩んだが、こんなチャンスもあまりないので送ってもらう事にした。
「いいの?」
「なんかあったら、こっちも後味悪ィーしな。」
「ご面倒おかけします。」
「ハッ、ベプシ1本でいいヨ。」
「かしこまりました。」
帰り道、途中でコンビニに寄りベプシを買って渡す。
「あんがとネ。」
と、勢いよく飲み始め、うめぇと笑う。
この日の帰り道は、今までと違いたくさん話しながら帰った。
2020.01.10