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「ワリィんだけど、しばらく部活で…。」
そう名前が言われたのは、6月に入ってからだった。荒北の最初で最後のインターハイ。今は何よりも大事なことだと名前も理解はしていた。
「悔いの残らないようにね。」
「ん。」
部活後も毎日自主練、休みの日も自主練、名前はほんの少しだけ不安が過った。もし怪我でもしてしまったら、と。けれど、荒北は違った。闇雲に練習しているようで、きちんと管理していた。
「名前ちゃん、最近荒北くんと会ってないね。」
兄の彼女が心配そうな顔をして名前を見た。
「うん。あっ、別れたとかじゃないから安心して!部活頑張ってるんだ。」
「そうなんだ。」
「インハイ見に行くんだー。自転車乗ってる靖友くん、すっごいかっこいいんだよ。」
「あはは、惚気られたぁ。」
「そんなんじゃないよ!ほんっとかっこいいんだってば。」
「そんなかっこいいんなら、そう思ってんのはお前だけじゃねぇかもしんねぇなぁー。」
意地の悪そうな顔でそう言う兄に、名前は肩にパンチをお見舞いした。
「いってぇー!」
「自業自得。」
兄の彼女も呆れたように見ている。
そんな事、私だって思ってるし不安なんだと兄を睨み、名前は部屋へと戻った。
人の気持ちなんていつ変わるか分からない。
先日、クラスの女の子が話していた。
「彼の事凄く好きだったし、今でも好きなんだけど、それ以上に好きな人が出来ちゃって。」
「えー、ちょっと前まで絶対結婚するんだとか言ってたのにー?」
名前は、何気なく耳に入ってきたその会話にドキリとしてしまった。もし荒北にそんな人が出来たらと思うと他人事には思えなくなった。
大丈夫、今はそんな事ない。インターハイの為に頑張っているのだから、そんな不安を見せてはダメだと名前は心の奥にしまい込んだ。
2020.10.27