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インターハイから4日後、荒北からメールが入った。
『夏祭り』
それだけだった。3日後の夏祭りの事だろうか、一緒に行こうという事だろうか。
『夏祭り行きたいな』
『18時に迎え行く』
荒北と二人での夏祭りとなれば、去年は食い気が勝った為着なかった浴衣をどうしても着たいと思い、長年手を付けずに貯金していたお年玉に初めて手をつけた。
当日着付けは当たり前だが名前は出来ず、また兄の彼女に着せてもらい、髪のセットやメイクまでしてもらった。
「なんでも出来るね。」
「知ってて損はないからね。」
名前は改めて、兄にはもったいない素敵で憧れる女性だなと思った。
まもなくして、名前の携帯に荒北から着いたとメールが届き家を出た。
インターハイ後、荒北とは初めて会う。翌日はきっとまだ疲れているだろうからと連絡はしなかった。その次の日もまだ疲れが抜けていなかったり、よくレース後にミーティングをすると聞いたので、邪魔になったらと思い連絡せず、その次の日はなんとなく連絡出来なかった。翌日から色々な理由をつけてはいたが、結局のところ何と声をかければいいのかわからなかったのだ。
「おまたせ。」
エントランスで待つ荒北の背中に声をかけた。振り向いた荒北は、おぉ、と少しだけ驚いた。
「いくかァ。」
「うん。」
歩き始めると、荒北は名前の手を取った。
「えっ、どうしたの?」
「んー?浴衣だしィ。」
「うん。」
「下駄だしィ。」
「うん。」
「転ぶだ…」
「転ばないから!」
名前はそう荒北に言うと、ニヤニヤしながら
「じゃー手は繋がなくて平気だナァ。」
と言って離そうとしたので、名前は慌てて手を握った。
「アー、ワタシ、コロブカモ、シレナイ。」
「ブハッ!カタコトォ。」
「ふふっ靖友くんもね。」
荒北は、名前の手をしっかりと握り直し、お祭りへと向かった。
「人増えてきたね。」
「だな。はくれっから手ェはなすなヨ。」
「大丈夫、今日は絶対離さないからねー。あっりんご飴発見!」
「ダァー!離してんじゃねェーか!」
花火が始まる時間まで、荒北も名前につられたくさんの出店を楽しんだ。
「そろそろ花火だな。」
「去年と同じ場所行く?」
「アー、あそこ行くとアイツらに会いそうだからァ。」
そう言って荒北は名前の手を引いて歩いて行く。
「ここ。」
「えっ、学校じゃん!」
「ソーネ。」
荒北は校舎の非常階段を2階まで登っていくと、非常ドアをそっと開けた。
「ここの鍵、壊れてんだよ。」
そう言って校舎の中へと入り、そのまま屋上へと出た。
「始まったな。」
「わぁ、凄い。」
こんな所を先生に見つかったらたマズいだろうなぁと思いながらも荒北に付いてきた名前は、花火の迫力にすっかり忘れてしまった。
「よく知ってたね。」
「センセーらが、話してんの聞いたんだよネ。」
「じゃぁ、先生達も今ごろ職員室かどっかで見てるかもね。」
それから二人は花火が終わるまで話す事はなかった。
「終わっちまった。」
「うん。」
荒北の声を聞いて、花火の事では無いと分かった。
「アー、差し入れあんがとネ。」
「ううん。」
「負けちまった。」
「うん。やり切った?」
「ん、でも負けた。」
「そっか。お疲れ様。前を向いてる靖友くん、凄くかっこよかったよ。」
「ハッ!んな事にゆーの、オメーぐれェだよ。」
名前は繋いでいた手を離し、荒北の方へと向くと手を広げた。
「ん!」
「ンダヨ、それ。」
「泣いても誰も見てないぞ。」
「バァーーカ、泣かねェよ!」
荒北は名前を抱きしめた。名前の耳元でスンスンと鼻をすする音がした。お疲れ様と名前はもう一度心の中で呟き、荒北の髪を優しく撫でた。
「あー名前の匂い、落ち着くワ。」
「え、泣いてたんじゃないの?汗かいてるから嗅がないで!」
2020.11.22