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インターハイなど大きな大会が終われば、3年生のメインは受験勉強と変わる。それはもちろん荒北も名前も同じだった。名前は、基本的に自宅にて勉強をしているが、週に1〜2日程、学校の図書室で荒北と一緒に勉強をする。
夏休み中の図書室は、開放されてはいるがあまり人はいないので、自宅と同じように集中は出来る。

名前の斜め前に座る荒北の手が少し前から止まり始めた。

「どうしたの?」
「アー、集中切れたァ。」

9時から始め、今は11時半を回ったところだった。

「少し早いけど、ご飯食べる?」
「名前のキリの良いとこまで待つ。」
「いいの?」
「ン。」
「じゃぁ、あと少しこのページだけ。ありがと。」

そう言うと、名前はまた参考書へと目を向けた。荒北は、そのまま机に伏せた。

「靖友くん、終わった。」
「ンーじゃぁ、メシ行くかァ。」
「あ、今日お弁当持ってきたから、教室で食べよ。」
「マジ?」

夏休み中の教室には誰もいない。本来ならば、教室には入ってはいけないのだが、特に見回りなどもしていない為、たまに勉強合間のお弁当を食べている生徒もいる。窓を全て開け、日陰になっている席へと座ると、持ってきたお弁当を広げた。

「いただきます。」
「いただきマース!」

お弁当の中身は勢いよく消えていった。

「アーうまかった。ごちそうサマァ。」
「よかった。」

名前がお弁当を片付けている間、荒北は大きなあくびをひとつした後、両手を上げて体を伸ばした。

「ちゃんと寝てる?」
「ンー。」
「靖友くん、志望大学絞った?」
「まぁ、一応な。名前は?」
「うん。私もほぼ決めた。」
「そっかァ。明早?」
「うん。靖友くんは?洋南?」
「オー。」
「遠距離かぁ。」

荒北は、受かればなともう一度あくびをした。

「まだ半年も先ダロ。」
「え!半年しかないんだよ?」
「…そっか、半年しかねェのか。オレ、受かるかナァ…。」
「そっちの心配?」
「まずはソッチだろ。」

確かにそうだが、荒北は寂しい気持ちはないのかと名前は肩を落とした。

「なんだヨ?」
「いや、靖友くんは寂しいとかないのかなぁと。」
「アァ?アー…。」
「二人とも第一志望が受かれば、遠距離でしょ?今まで毎日会えてたのに…。」
「毎日会えないとダメになるって?」
「そんな事にはなりたくない。」
「そう思ってんなら大丈夫だヨ。」
「なんで?なにが大丈夫?」

名前の言葉に、今度は荒北が肩を落とした。

「なに?」
「あんなァ、オメェがオレとダメにならねェって思ってる間は大丈夫なんだよ。」
「…分からない、なんで?」
「オレからは絶対離れる事はねェからだろ。」

荒北の言葉に、名前の目はまん丸になった。さらに荒北は続けた。

「まあ、名前がオレから離れようとしたって、んな事許さねェけどなァ。」
「……靖友くん、私の事大好きなんだね…。」
「当たり前だろ。」
「当たり前…かぁ!」

先の事は分からない。けれど、荒北の当たり前だと言い切る言葉にいまの名前の心の中の不安は全て吹き飛んだ。

「ふへへっ。」
「気持ちわりィー。」
「靖友くん、私の事大好きだもんね。ふふっ。」
「っせー。」
「ねぇ、靖友くん。両手を出して、目つぶってて。」
「なんだヨ?」
「いーから!」

荒北は怪訝な顔をしながらも、両手を机に置き目を閉じた。その両手を名前は掴むと、机に身を乗り出し、荒北に短いキスをした。
その瞬間荒北は驚き目を開け、目の前の名前を見るとすでにイスに座って恥ずかしそうに笑っていた。

「………悪かったナ。」
「え?」

名前は、荒北からの突然の謝罪に何の事かと分からなかった。

「あん時、屋上で…悪かった。ずっと引っかかってた。」
「あっ。」

中2の頃、荒北が野球を辞めた時の事だった。

「あん時、いちばん嫌がるだろうなと思った事、オメェにしちまった。」
「そっか。あれがファーストキスだったんだよね。」
「マジで、ワリィ。」
「うん。でも良かった。」
「なにがァ?」
「ううん。あ、そろそろ戻って再開しよっか!」

名前は、机の上のカバンを持つと立ち上がった。

「お腹いっぱいだから、眠くなりそうだね。靖友く…うわっ」

荒北は廊下へと一歩出た名前の腕を掴み教室の中へと引っ張り込む。

「どうしたの?びっくりし…!」

荒北はチュッと音を立てて名前にキスをした。

「やややややす、ともくん…。」
「なんだヨ、さっきは自分からしたくせにィ?」
「そうだけど…いや、なんか照れる。」
「ハッ!オラ、行くぞォ。」

今度は荒北がさっさと教室を出て歩いていく。顔が真っ赤であろう名前は、図書室に戻るまでには平常心に戻らないと、と思いながら前を歩く荒北を見れば、耳が真っ赤な荒北に気付いた。

「はは、二人でこんな状態じゃマズいなぁ。」
「アァ?なんか言ったァ?」
「ううん。ねぇ、自販機寄っていい?」
「イイヨ。」

寄り道している間に、赤みが引くといいなと名前は笑った。




2020.11.30


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