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番外編
三兄妹、一番年下は要領がいいとよく言われるが、自分でもそう思う。兄と姉は歳が近いからよく喧嘩をしていた。性格も二人は似ていると思う。それを姉に言うと、物凄く怖い顔をされるから言わないけれど。
「お姉ちゃん、もうすぐ靖くん帰ってくるね。」
インハイ後、兄からお盆あたりに1週間帰るからと連絡があった。
「あー、アイツ1週間もいるんでしょー?寮で勉強でもしてればいいのに。」
「なんで勉強?靖くん、勉強なんてしないでしょー。」
「高3なんだし、大学受験とかあるじゃん。」
「靖くん、大学行くの?どこ行くのかなあ?お家に帰ってくるのかなあ?」
そんな事を言ったら、姉の顔がまた恐ろしい顔になった。私は兄が帰ってきたら嬉しいんだけどな。
「ねえ、靖くんって彼女出来たかなぁ?」
「出来るわけないじゃん。」
「なんで?インターハイかっこよかったじゃん。」
先日のインターハイ、兄には内緒で家族みんなで観に行っていたのだ。父親と母親の仕事の都合もあり、1日目しか観に行けなかったが、ゴール少し手前で帽子を被ったり眼鏡をかけたりと各々変装までして。
一瞬ではあったが、それはそれはみんな大興奮だった。両親なんて目に涙まで溜めてたから、兄の本気の姿が相当嬉しかったんだと思う。
「靖友のくせに。チッ。」
聞こえるか聞こえないかの声でそう言った姉の顔も、とても嬉しそうだった。なんだかんだ、みんな兄が大好きなんだなと思った。
「はぁ?相変わらずのブス全開だったけどぉ?」
「えー、かっこよかったよー。どうしよう、靖くん彼女出来ちゃったかも。」
「それはないから。アイツに彼女?ないない!絶対ないね。」
私も兄に彼女というのは、自分で言ったものの想像はできなかった。
それなのに、今目の前を歩く兄の横には女の人が。しかも手を繋いでいるではないか。
「おおおおおお姉ちゃん………。」
「…………あれは、靖友、ではない。」
「いや、靖くんだよ!」
「いや、違う。」
兄が帰ってきてから3日目、今日は1日出掛けると言うので、暇な私は姉と出掛ける事にした。お盆だし、中華街は人だらけだって事を忘れていたが、どうしてもお気に入りの肉まんが食べたくて、嫌がる姉に頼んで一緒に行ってもらった先に、デート中の兄が居たのだ。
「ほら、よく見てみなよ。隣の女の人。美人すぎ。だから、あれは靖友ではない。」
「いやいやいや、お姉ちゃん、絶対靖くんだから!」
言い合いながらも、気になり過ぎて姉と二人でひたすら兄から少し離れた後ろを付けて歩いた。
「靖くんの彼女、だよね?」
「靖友ではないけど、まあアイツの彼女だろうね。」
「靖くん…騙されてるのかなぁ?」
「……確かに。その方がしっくりくるかも。」
「靖くん、可愛そう!別れさせないと!」
「え!ちょっと!」
私は兄へ向かって駆け出した。
こないだ見たドラマでやってた。美人だけれども性悪女が、カッコよくもないウブな男を騙してお金や物を巻き上げる。
口も目も顔も悪い兄だけれど、まっすぐで優しい兄が遊ばれているなんて我慢が出来ない。
「靖くん!」
「ア?アァァ!」
「靖くん!目を覚まして!」
「なっ、なんでお前が!」
「靖くん騙されてるんでしょ!靖くんは、んぐっ」
追いついた姉に背後から羽交い締めをされ口を塞がれてしまった。
「えっと、靖友くん?」
「アー、ワリィ。これ、妹。」
「ふむー!ふんんふ!」
「アンタは大人しくしな。」
姉は一向に手を離してくれない。
「とりあえずここ邪魔だからァ。」
「あっ、お昼ご飯食べた?まだなら一緒にどうかなぁ?」
「エ。」
「え。」
「ひぐー!」
お店は予約をしていたそうだが、料理を予約していた訳ではなく、お店も4人席の場所を確保してくれていたので、すんなり入ることが出来た。
私の前に不機嫌丸出しの兄が座り、隣に座る微妙な顔をした姉の前に兄の彼女の名前さんがにこにこして座っている。
「なんだ、この状況はァ。」
「ダメ、だった?」
「アー、ダメっつーかァ。まあ、名前がいいんなら…。ってよくねェよ!」
「えー、どっちよ。」
ちらりと姉を見れば、相変わらずなんとも言えない顔で遠くを見つめたままだ。全てを放棄したと悟った。
「名前さんは、靖くんの彼女なんですか?」
「オイ!」
「ははっ。うん。そうです。」
「遊びですか?靖くんの事、騙してるんですか?」
姉がギョッとした顔で私を見たのが分かった。
「オイ、オメェ…。」
「まあまあ、靖友くんは落ち着いて。なんでそう思ったの?」
「こないだ見たんです。テレビで。カッコよくない男に美人の彼女が出来たと思ったら実は性悪女で、お金目的だったってのを。いたっ。」
テーブルの下で足を蹴られた。たぶん姉だろう。姉だって言っていたではないか。騙されてるって。
「うーん。そっかぁ。でもね、それは違うよ?」
「何が違うんですか?」
「テレビではカッコよくない男にって事だったけど、靖友くんはかっこいいから。そこでもう全然違ってきちゃうよ。」
そう言って名前さんは笑った。美人の笑顔は破壊力が凄いと思った。
「靖くん、カッコいい…ですか?」
「テメェ…ディスってばっかだなァ?」
「うん。私には世界一のヒーローだよ。あ、靖友くんには内緒だけどね。」
それを聞いて私は目を丸くした。兄は、両手で顔を覆っているが、耳まで真っ赤だ。そして、隣の姉も兄と全く同じ事をしている。やっぱり二人は似ている。
兄も姉も感がいいと言われているが、それは私も同じで。
「ごめんなさい。」
「どうしたの?」
「騙してるとかひどい事言って。ごめんなさい。」
「ふふっ、大事なお兄ちゃんの事を思ってだもん。いいですよ。」
そんな事を言われたら、急に私は恥ずかしくなった。もじもじとし出したところに、ちょうど料理が運ばれホッとした。
それからは、名前さんの惚気話とその度に顔を赤くして口悪くなる兄の繰り返しだった。
会計の際は、兄にご馳走様と可愛く言えば、舌打ちしつつも払って貰えることが分かっていたので、それを実行した。姉は、自分の分は払うと兄に言っていたが、
「口止め料。オメェ、ぜってー親に言うなよ。」
そう言って、姉の分も払っていた。
お店を出て、次はどこに行くのか聞いたら、
「教える訳ねェだろ!さっさと帰れ!」
と言われてしまったので、姉と帰る事にした。ふと後ろを振り返れば、また二人は手を繋いでいる。
「あんなに嬉しそうな顔してるのに。なんで騙されてるなんてお姉ちゃん言ったのよ。」
「はぁ?しっくりくるって言っただけで、騙されてるとは言ってないじゃん。」
「えー言ったよ!」
「言ってない!だいたい、アンタまだ小学生のくせに、なんつードラマ見てんのよ!」
そうだったっけかなぁと思い出そうにも、もうすっかり忘れてしまった。
「ああ!肉まん!食べ忘れたぁ…。」
「もう二度とアンタとは出掛けない。」
そう言う姉だが、結局は私に甘いので兄のように舌打ちしつつもまた出掛けてくれるだろう。
「ただいまー。」
「ただいまー!お母さーん!聞いてー!靖くんがねー!」
姉は口止めされていたけど、私はされてないから、今から全部報告しておきます。
2021.01.18