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箱根学園文化祭は、毎年1、2年生で行われる。3年生は、自由参加となり、主に部活動での出し物に力を入れる生徒も多い。

「靖友くん、文化祭どうするの?」
「アー、部活の方あっからァ。」
「そっか。」
「少しなら、回れる。」
「本当?やった!自転車部は、何やるの?」
「アー…………喫茶。」
「え?キッサ?何?」
「飲食。」
「飲食…ああ、喫茶店?そうなんだー。楽しみだな。」
「来んな、ヨ。」
「え、なんで。行くよ。」
「いや、マジで来んな。」
「マジで行きます。」

来るなと言われたら行きたくなるのが人間の心というものでしょうと、なんど荒北に来るなと言われても名前は決して首を縦には振らなかった。













「そろそろ行ってきます。」

文化祭当日、荒北から教えてもらった休憩時間に合わせて学校へ向かう為、名前は兄に声をかけた。

「早くねぇ?」
「靖友くんの喫茶店とこ見に行きたいから、早めに行くの。」
「いってらー。帰りなんかあったら連絡しろよ。」
「はいはい。行ってきまーす。」

相変わらずな過保護っぷりに少し笑いながら名前は家を出た。

学校近くになれば、箱学の制服を着た生徒や私服姿の学生、親などでいっぱいである。

「凄いな…。さてと、自転車部は…と。」

名前は、荒北達の教室へと向かった。
ハズだったのだが。

「ひとりでなんて寂しーじゃん!」
「ひとりじゃないので。では。」
「まーって!待って!待合わせ?なら、その子も一緒でいいし。」
「すみませんが、校内でのナンパは禁止ですので。」
「ナンパじゃないし!じゃぁ、さっきの場所まで、連れてってよ!な!」

声をかけられ簡単に足を止めてしまった自分の馬鹿さに悲しくなりながらも、万が一荒北に見つかったらと思うとここから一刻も早く離れなければならない。

「苗字、どうした。」

その声に振り向けば、タキシード姿の福富がチラシを手に立っていた。

「ふ、福富くん?」
「どうしたんだ。もしかして、絡まれてるのか?」
「ないない。場所案内してただけ。じゃ、失礼します。」

名前は、いい人が現れてくれたと福富の方へと小走りで向かった。

「福富くん、なんでタキシード着てるの?」
「荒北から聞いてないのか?」
「うん、喫茶店ってのは教えてもらってるけど。」
「そうか。執事喫茶だ。」
「…しつじ?」
「ああ。」
「って事は!靖友くんも!たたたタキシード?すぐに行かないと!福富くん、ありがとう!またね!」
「あ、だが、荒北は…。むっ、行ってしまったか。」

名前は、福富と別れ走って向かった。すると、執事喫茶の教室前は、待合わせまでには中に入れないほどの長蛇の列が出来ている。

「どうしよう。」

仕方がないので、中に入るのは諦めるが、荒北のタキシード姿は何としても見たいため、隣の空き教室からベランダへと出て、ベランダの窓からこっそりと覗いてみた。

「わー、女の子ばっかり。凄いなー。東堂くん、カチューシャ外さないのか。新開くんの周り、みんな目がハートだ。靖友くんは…どこ?」

ぐるりと教室内をひと通り見回しても、荒北の姿はどこにもなかった。もしかして、裏方やってるのかなともう暫くこっそり窓に張り付き中を眺めていると、メイド服を着た二人が出てきた。

「メイドもいるんだ。へぇ、メイ………靖友くん!?」

その声は、名前が思うよりも大きかった様で、教室内にいた荒北が振り返った。そして、窓に張り付く名前を見つけるや否や、荒北の顔は真っ青になって行く。

「テッ…テメッ…!」
「あー、荒北さんの彼女さんだぁー。」

荒北の隣に立つ真波は、スカートの裾を持ってヒラヒラとさせながら、名前に手を振っている。

「靖友くん、メイド…メイド靖友くん…。かわっ…。」

可愛いと言えない形相の荒北がどんどんと近づいて来る。これはまずいかもとは思っても、写真に残したい気持ちが勝る名前は、ポケットから携帯を取り出すとすぐにカメラを起動させ、それはそれは恐ろしい顔の荒北を連写した。










「チッ。」
「…ふふっ。」
「チィッ!」
「ふっ…ははっ!」
「来んなっつったろォが!」
「来てよかった。」

あの後、荒北は東堂達にしっかりと捕まり、残り30分をメイドとして、鬼の形相のまま仕事をこなし、休憩で着替えようとした荒北に

「そんな顔でいられても、女子達が怖がるだけだ。2時間やるから、その服のまま苗字さんとチラシを配って少しは貢献してこい。」

東堂にそう言われ、いま名前の隣には、メイド服を着たままの荒北がいる。

「荒北ぁ!似合ってんぞー!」
「靖子ちゃーん!」
「荒北の足ヤバッ!」
「腰細っ!腹立つわぁー!」
「ッセー!!!」

そんなやり取りを、ただただ隣で名前は笑って見ていた。

「靖友くん、チラシ無くなったから、ちょうだい。」
「ハァ?もう配ったんか?」
「うん、早く全部配っちゃお。早く…。」
「ア?」
「早く手繋ぎたいな…と思って。」
「…チッ。」

荒北は、残りの少ないチラシを持ったまま2年のクラスへと向かった。

「いた。黒田ァ!」

教室を覗くとすぐに、荒北は黒田を呼ぶと、吹き出すのを堪えられていない黒田が出てきた。

「あらっ荒北…さん、プッ、なんっスか、ブフッ、その格好。」
「うるせー。これ、配っとけ。」
「はぁ?俺、今日当番じゃないっスけど。」
「いーから、教室の隅にでも置いとけ!じゃーな。」
「ちょっ!」

そんな二人のやり取りを名前はあわあわしながら見ていると、荒北は背を向けるとそのまま歩き出してしまった。

「あっ、あの黒田くん?ごめんね、チラシ配るから大丈夫だよ。」
「はぁー、いや、いいっス。いつもの事なんで。」
「でも…。」
「大丈夫っスよ。あの人、待ってますよ。」
「うん。ありがとう。あ、クソエリートって黒田くん?」
「は、はぁ?」
「靖友くんが、クソエリートは根性があるって前に言ってた。部活頑張ってね。」
「…っ、アンタ達も!受験勉強頑張って下さいよ!」

黒田の言葉に名前は耳を塞ぎながら聞きたくないと笑って去っていった。

「黒田くんが、受験勉強頑張れって。」
「ンー聞こえたァ。それより、ん。」

荒北は左手を名前に差し出した。

「いいの?学校だよ?いいの?」
「テメェが繋ぎてェっつたんだろォが!」
「やった!嬉しい!」
「チッ。この服じゃねけりゃなァ…。」
「高校最後の行事、思い出に残るよ。」

名前は、荒北の手を握った。




2021.01.30


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