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「初詣行きたいな。」
「ア?人、多いだろ。」
「そうだけど。合格祈願とか?」
「神頼み、ねェ。」
「ダメ?」
「……いーけどォ。」

そうして決まった初詣は、1日お昼頃待ち合わせとなった。









「あけましておめでとう。」
「ン、おめでとォ。……キモノ。」
「そうなの。せっかくだから着て行けってお母さんが。どう、かなぁ?」
「………いーんじゃねェの?」
「よかった。でも、足痛くなるかも。」
「ハッ、ゆっくり行きゃいーだろ。」
「ありがとう。」

当たり前のように手を差し出す荒北に、名前もその手を握った。

神社へと近付くにつれ、人も多く、また名前が期待をしていた出店も増えてきた。

「靖友くん、どうしよう。」
「あ?」
「私の目的が変わりそう。」

荒北は、何を言っているんだと名前を見れば、キラキラした目で出店を見つめている。

「ハァー。……先になんか食うかァ?」
「えっ!いいの?」
「一個だかんな。まだ食いてえなら、お詣りしてからァ。」
「やった。」

どれにしようとキョロキョロし、林檎飴を見つけると名前はアレにするとにこにこして言った。

「オメェ、ぜってー着物汚すぞ。」
「……そうだよね。…そう、だよね。」

明らかに肩を落とす名前に、思わず荒北は吹き出してしまった。

「な、なに?」
「いやァ、ンなにガッカリしなくてもォ?」

そう言いながらも、荒北は拳を口元に当て笑っていた。

「オメェ、なんでそんなに林檎飴が好きなんだよ?」
「うーん、小さい頃ね、林檎があまり好きじゃなかったの。たまたま食べた林檎がすっごく酸っぱくて。それが、飴にコーティングされたらあら不思議。もう本当に不思議なくらい甘くて。うん、だからギャップ?」
「ハァ?甘い林檎食えばいーだろ。」
「でも分からないじゃない?どの林檎が甘いかなんて。」

分かるような分からないような荒北は、ふーんとその話を終わらせようとした。

「あっ、分かった。」
「アァ?」
「私、ギャップに弱いんだ。」
「ヘェ。」
「あ、何その興味ありませんな返事。」

荒北は、どんどん混雑が増し、それどころでは無くなってきていた。

「人多いからァ。しっかり捕まっておけよ。」
「靖友くんもギャップあるし。」
「オイ、テメェオレの話聞いてるゥ?」
「今だって、靖友くんは色んな人にぶつかりながら歩いてるけど、私はぶつからない。これって、靖友くんが私を歩きやすい場所歩かせてくれてるからでしょ?優しい。今すっごく目が釣り上がって人相悪いのに、優しい。このギャップ。」
「チッ!話聞く気ねェって事がよく分かったわァ。」

荒北は諦め、とにかく名前を守りながら少しずつ前へ進む事だけを考える事にした。
やっとの事でお参りも終わり、先程買う事を諦めた出店へとまた向かっていると、荒北が肩を掴まれたのか突然立ち止まった。

「アァ?」

名前の頭の上から聞こえた、明らかに喧嘩腰な荒北の声に、名前は少しだけ慌てた。

「や、靖友くん?」

荒北の顔は肩を掴まれた方へと向き名前には顔が見えなかった。すると、肩を掴んだ相手の嬉しそうな声が聞こえた。

「やっぱ、荒北かよ!」
「マジ?すげー!こんなとこで会えんなんて!」
「お前、こんなとこで何してんだよー!ってか、連絡よこせよー!」

声からするに、相手は一人ではないようだった。名前は、荒北の背中から顔を出すと、そこに居たのは同じ中学で荒北と同じ野球部だったメンバーだ。
驚いていた荒北だが、言葉を発すればまた盛り上がった。

「んで、テメェらいんだよ!」
「ヤベー!荒北だー!すげー懐かしいー!」
「っせー!」
「口わりー!髪なげー!」
「…………!」

名前はどうしたものかと、その光景を眺めていたら、ひとりと目が合った。同じクラスになった事はなかったが、ペコリと頭を小さく下げると、目が合った男の子は驚いたように口をパクパクさせ、荒北を叩いている。

「お、おおおお、おい!荒北!」
「アァ?って、イテェからァ。」
「おおおおおお前!」
「どうした!?」
「ととと、ととととな!」
「どうしたんだよ?めちゃ吃ってんじゃねーか。荒北なんかあったんか?」
「ちちちちちちげえ!!!隣だよ!荒北の!隣!!!」

荒北もハッとして思わず名前を自分の背に隠してしまった。その行動は、しっかり見られており、また背中から着物姿の名前はどうやっても見えてしまう。それに気付いた他の面々もギョッとした顔をした。

「え、荒北。俺たちはヤローばっかで来てるっつーのになんだよ。マジか。」
「おい、マジか。」
「マジなのか。女か。荒北、彼女なのか。」
「ってか………苗字だろ!?俺一瞬見えたぞ!ペコリされたぞ!おい!なんで一緒にいんだよ!」

荒北は盛大な舌打ちをした後、ため息をついた。名前もバレているならと荒北の背から顔を出し新年の挨拶をした。

「あけましておめでとう、ございます。」
「荒北と一緒に来た…んだよな?つき……いやまさかな。」
「荒北と付き合ってんの?」
「アァーーー!うっせー!」

そう叫ぶ荒北の顔は、名前を知られた面倒臭さもあるが、久々の旧友にやはり少し嬉しそうに見えた。









「アー、さっみッ!」
「雪降らなくて良かったね。」
「だなァ。」

名前は、荒北の顔を見てふふっと笑った。

「なァに笑ってんだァ?」
「雪降ったら、初詣行けなかったかなと思って。」
「アァ?」
「靖友くん、絶対に風邪引きそうだもんね。」
「んな弱かねェわ。」

ムスッとし口を尖らせた荒北にまた笑ってしまう。

「でも…。」
「でも、まァ、今年行けなくたって、来年もその次もあるだろ。」

荒北も同じ事を思っていてくれた事に、名前は嬉しくなった。もちろん先の事など分からない。遠距離にもなる。大学で新しい出会いだってある。それでも、今の荒北は、来年もその次も名前と一緒にいると思っていてくれるだけで、それだけで嬉しくなる。

「うん。そうだね。そういえば、靖友くん、しっかり合格祈願した?」
「オレは、神頼みなんかしねェ。」
「だと思ったから、私が靖友くんの分もしといたよ。」
「オメェ知ってっかァ?お参りは願い事じゃなくて宣言するって事。」
「知ってるよ。だから、私も靖友くんも第一志望の大学受かりますって言ったもん。」
「ハッ!んじゃ、意地でも受からねェとな。」

荒北はそう言って名前と繋いだ手に力を込めた。




2021.03.02


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