07
荒北は野球を辞めてから、誰が見ても分かるくらいに荒れていった。荒北には野球しかないと思っていた。その野球がなくなった。全ての事を周りのせいにし、そして自分から色んなものを手放していった。そんな自分自身にも苛立った。
手放した中のひとつに、荒北にとっては大切に思っていた名前への気持ちもある。
最初は、噂されてる女が内面を隠して嘘で塗り固めた嫌な女かと思っていた。愚痴っている中身も、結局は人のせいにしているだけ。けれど、そんな名前も自分自身に問題があると気が付き、それを認め、変わろうと努力した。そんな名前に荒北も惹かれていた。
だからこそ、そばにいて欲しくなかった。名前は、自分を認めたというのに、荒北には今はそれが出来ない。人のせいばかりにし、自分の存在する意味すらも分からない。
最後に会ったあの日、あの時の怒りを全て名前にぶつけてしまった。惹かれて、好きだった名前に最低な事をしてしまった。あれから1年以上経ったと言うのに、それは今でもずっと後悔している。何故か。それはきっとまだ名前の事が好きだからだ。
先日、授業をサボり歩いていると、女が木登りをしている姿が見えた。それが誰かなんてすぐに分かった。名前は慣れたように木を登っていく。サルかよと思わず笑ってしまった。荒北は、笑えた自分に少し驚いた。
そのまま名前を見ていると、下りてくる途中で止まった。よく見れば、片足が足の置き場を探しているようだ。しばらくその状態が続いていて、思わす近づいてしまった。
そして無性に声をかけたくて仕方なくなった。ただその時、足の置き場を教えてあげればよかったのに、何故かまた見えた下着の柄をつぶやいてしまった。案の定、名前は落ちてきて、それを慌てて受け止めた。
イライラは止まらない。けれどこの日は、ほんの少しだけイライラが和らいだ気がした。
「好きなんだけど…付き合ってもらえないかな。」
誰だよ、こんなところで告ってる奴は、と荒北は告白の現場に出くわしてしまった。
お互い見えてはいないので、このまま立ち去ろうとした時聞こえた声に足が止まった。
「すみません。ごめんなさい。」
名前の声だった。
「どうしてもダメかなぁ?何がダメ?」
「何がダメって言うか、あなたの事私知りません。」
「だからダメ?付き合っていくうちに知ってもらえたらと思ってるんだけど。」
しつこい奴だなと荒北は心の中で舌打ちをしてしまう。
「ごめんなさい。」
「好きな奴でもいるの?」
その問いに荒北までもドキッとしてしまう。いるのだろうか、名前に好きな人が。
「いま……す。」
「そっか、分かった。ちゃんと言ってくれてありがとう。」
「いえ、こちらこ…そ?」
ふたりの小さな笑いと去っていく足音が聞こえた。
好きな奴いるのか、荒北はなぜか自分も振られた気分になり、この日はいつも以上にイライラする日となった。
2019.11.25