10
「苗字さん、これ終わったので確認お願いします。その間に、こっちの書類始めてます。」
「あ、うん。よろしく。」
荒北に会い全力で落とします発言をした斉藤は、翌週から人が変わったように仕事に取り組んでいる。
「斉藤くん、今日も頑張ってるね。最初はどうなるかと思ったけど。苗字さんに頼んで良かった。」
と満足気に笑う上司に名前はため息しか出ない。
「残り1週間切ったな。」
新開に声をかけられ名前は頷きながら
「これでやっと終わるよ。」
と斉藤を見ながら言った。
荒北と名前は、なかなかゆっくりと会う時間が取れなくても、1日1回はメールなりで連絡を取るようにはしていた。おはようやおやすみだけのメールの日もあれば、もう少し会話を楽しむメールの日もあった。荒北は、斉藤と会った日からしばらくは名前にどうなのだと聞くこともあったが、男の嫉妬は醜いし、あまり聞くと名前も信用されてないなんて勘違いしてしまうのではないかと思いそれは辞めた。
『あと2日で終わるよー』
水曜日の夜、荒北の携帯が鳴った。
『あと少しだな』
『3ヶ月長かった』
『金曜の夜は?』
『研修お疲れ会で飲みなんだ』
『遅くなんなら、ウチくれば?』
『行きまーす!2時間できっちり出る!』
『飲みすぎんなよ』
『ワタシ、オサケノメナイ』
『ウソツキ』
金曜の夜、荒北は一度家に帰り着替えてから、名前の飲み会が終わる時間頃を見計らって、名前がいる居酒屋近くまできた。
「そろそろかネェ。」
キョロキョロと荒北は周りを見ていると
「なんで…ダヨ…。」
斉藤と抱きしめ合っている名前を見つけた。斉藤の腕は、しっかりと名前の背中に回っており、後ろ姿の名前の腕も斉藤の背中に回っているように見える。周りには新開や他の社員らしき人はいなかった。
なんで二人で、なんでこんな事、考えただけで荒北は頭がおかしくなりそうになり、その場から逃げる様に離れた。
それから10分後、名前からメールが届いた。
『いまやっと終わったよ』
『あと少しで着く』
「靖友!」
「おぉ…おつかれ。」
「ごめんね、わざわざお迎え来てもらっちゃって。」
「べつにィ。」
いつも通りの名前を見ていると、先程見たのは間違いだったのではないか、何か理由があったのではないかと思えてくる。
「飲み会、どうだったァ?」
「いつも通りな感じだね。終わって早々に隼人くん達は2次会行ったよ。」
「ふーん…新人くん…はァ?」
「ああ…、彼は見事に酔っ払ってみんなして2次会行かない私に押し付けてった。」
歩くのもままならない状態の斉藤を抱えて、タクシーに乗せたと名前は言った。それを聞いて、荒北は少しホッとした。きっと先程見た姿は、抱き合っていたのではなく、抱えていただけなのだろう。だが、やはり何か名前は隠している様な気がした。
「それだけェ?」
「え?それだけって、タクシーに乗せれば十分でしょ。」
あとは知らないと名前は言った。
「…もしかして、斉藤くんとの事、なんか気になる事ある?」
「えっ?」
「あっ、ごめん、何でもない。気になる事なんてないよね。もしかしてヤキモチ焼かれたのかなぁ?とかって。」
その言葉に、荒北は何も返せずにいた。
「うそうそ、ほんとごめん。調子に乗った。早く行こ!」
2020.04.12