09


荒北の部屋は、テレビボードにテレビ、ベッド、小さいローテーブルと物がとても少ない。

「凄いね、わりと広いのに最低限のものしかない。」
「男の部屋なんてこんなもんだろ。」
「しかも、ひとつひとつがオシャレってのが偉いね。」
「どっから目線ダヨ。さっさと風呂入ってこい。」

荒北は、クローゼットからスウェットの上下を出し、タオルを渡すとお風呂場まで連れていった。

「お借りします。ありがとう。」
「へいへい、ごゆっくりィ。」

名前がお風呂に入っている間、物は少ないが散らばった雑誌や本を慌てて片したり、ベッドも整えたり、ホットミルクを用意したりと、落ち着かない荒北は、部屋の中を行ったり来たりして名前が風呂から出るのを待った。


「お風呂ありがとう。」

荒北のスウェットは想像通りダボダボで、その姿に荒北はぐっときてしまう。

「あー、オレも入ってくる。それでも飲んでて。」

ローテーブルに置いたホットミルクを指す。

「いただきます。」

名前のぎこちない動きに、こいつも緊張してるのかと荒北は少し笑えた。


荒北が風呂から出てくると、名前はなんとも言えない姿で寝ているようだった。

「どうやったらそんな形で寝れるんだヨ…。」

名前は、ベッド横に膝立ちで上半身はベッドにうつ伏せに乗せ寝ている。時刻は1時半を過ぎていた。

「そりゃ疲れてるからなァ。」

荒北はそっと名前を抱きかかえると、ベッドに下ろした。
「…ん、やす、とも?」
「んーゆっくり寝ててイイヨ。」

薄っすらと目を開けた名前の頭を優しく撫でながら荒北もすぐ横で眠りについた。






朝、荒北は起きるが身動きがとれない。目を開けると、名前が荒北を抱き枕のようにし抱きしめていた。どうしたものかと悩んでいると、名前は頭をグリグリと荒北の胸に押し当ててくる。

「んー…かた…んー。」

それはそうだろうと思いながらも押し当てられた胸が少し痛い。やっとグリグリが止まったと思ったら、名前は突然起き上がった。そしてボサボサな髪のまま、荒北を見る。

「寝てた!」
「ぶっ、はっはっはっはっ!」

その姿に荒北は思わず笑ってしまう。名前は慌てて髪を手櫛で整え顔を手で隠した。

「いまさら遅ェーよ。」
「ごめん、本当ごめん。寝ちゃってごめん。」
「イーヨ、オレもすぐ寝ちまったみたいだしィ。」

荒北も起き上がり、ベッドから降りると冷蔵庫から水をコップに入れてベッドに座ったままの名前に渡した。

「ありがとう。」
「ん。」

水をゴクリと飲み、申し訳なさそうな顔で

「顔、洗ってきます。」

と名前は洗面所へ向かった。名前のその姿に荒北はぎょっとした。そして少しして洗面所からギャッと叫び声が聞こえた。

「ごめん!下、ズボン!取って投げて!」

寝ている間に脱げてしまったズボンに気がつかず、名前はベッドから出ていたのだ。荒北は、はっとして急いで布団の中からズボンを探し洗面所手前から投げる。洗面所から名前の手がそっと伸びズボンをパッと取った。

「お見苦しい姿をお見せして申し訳ないです。」

ひと通り整えた名前が洗面所から出てくると顔を真っ赤にしてそう言った。

「いや、なんつーか、上着もデカイくてワンピースみたいだったから下着は見えてねぇし、彼シャツっつうの?そんな感じで…ウン。」

うまくフォローが出来ない。

「彼シャツ…あははははは!靖友の口から、彼シャツって!」

お腹を抱えて笑う名前を見て、荒北も自分のフォローの下手さにつられて笑ってしまった。

「あー面白かった。」
「そんな笑うことねーだろ。」
「いや、笑うでしょ。」

名前は思い出してまた少し笑ってしまう。

「でも、そのダボダボ感クルよな。」

荒北のその一言で急に空気が変わった気がし

「あ、もうお昼になるんだね。泊めてもらったお礼にお昼ご飯作るよ。」

名前はキッチンに向かう。

「いーよ、メシなんてどっか食いに行けばいいしィ。」
「でも、ほら、ね、冷蔵庫開けていい?」
「いーけどォ。なんも入ってねェよ。」

荒北が言うように、冷蔵庫の中には飲み物と卵が少ししか入っていなかった。

「目玉焼きなら…。」

そう言いながら名前が冷蔵庫から顔を上げた時、後ろから荒北に抱きしめられ体が固まる。
無言のまま荒北は冷蔵庫を閉めると名前の体の向きを変え、正面から抱きしめ直した。

「あの、えっと…。」
「……フハッハッ」
「………なぜ笑う。」
「名前、固まってんなと思って。」
「そりゃ当たりま…」

荒北は名前から体を離すとチュッと可愛いキスをした。照れて下を向く名前の両頬を荒北は両手で潰すと名前の口がタコのようになった。

「ちょっと!」

荒北は悪戯っ子が楽しんでいるような顔をして名前を見ると、その口に何度もキスを繰り返した。だんだんと深くなっていく。

「やべェ、止まんねェ。」

そう言い名前の上着の裾から手を入れた。

「ま!待って、ここキッチン…。」
「ヘイヘイ。」

荒北は名前を肩に担ぎベッドへと運んだ。

「お姫様抱っこが良かった…。」

名前は荒北の背中を見つめながら小さく呟いた。




2020.03.16
monoGatari