12
荒北は意を決し、名前の家のチャイムを押す。
「いらっしゃい。」
「おぉ。」
「ベプシでいいよね?」
「アァ。」
いつもの会話と変わりはないが、名前はどこかソワソワしている。荒北もいつも通りを装ってはいるが、苛立ちを隠しきれてはいなかった。
「今日何かあった?」
「なにがァ?」
「なんか機嫌悪そうだったから。」
「べつに。それより、なんか話しあんダロ?」
荒北は、名前からの話をさっさと聞き終わらせたい気持ちでいっぱいだった。
「うん、でも今日は辞めといた方が良さそうかな。急いでないし。」
と名前は困ったよう笑い、キッチンへと向かった。
「フーン、オレも話しあんだワ。」
「そうなの?なに?」
「別れよ。」
荒北の口から、思いの外すんなりとその言葉が出て、荒北自身も少し驚いた。
「…………えっ。」
キッチンでは、名前の動きが完全に止まってしまってしまっている。
「だから、別れよって言ったのォ。」
「なっ…んで?」
「疲れた。やっぱオレ付き合うの無理。」
「ウソだよね?」
「…本気ィ。」
今にも泣き出してしまいそうな名前だったが、ぐっと堪えている。
「そっか……やっぱりダメだったかぁ。」
そう言って名前は笑った。
「私、靖友に一緒にいたいとは言われたけど、好きって言われた事なかったんだよね。」
そうだっただろうか、いつも思っていたが言ったことがなかったのだろうかと荒北は思い出そうとしたが、もう必要のない事だと思いやめた。
これ以上ここに居る必要も無くなったので、荒北は帰ると言って座っていたソファーから立ち上がった。
「今まで色々楽しかったよ。あんがとネ。」
「……うん、こちらこそ。ちゃんと言ってくれてありがとう。」
名前の声が密かに震えたように思えたが、気のせいだと思った。
「じゃーお幸せにィ。」
と玄関から出て行く荒北は閉まりかけた扉の奥から
「だれと…」
と言った名前の声は聞こえなかった。
2020.06.12