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名前と別れて2ヶ月が過ぎた頃、新開から久しぶりにメールが届いた。新開が新しいプロジェクトのリーダーに選ばれてから忙しく、3ヶ月ぶりの連絡だった。

『名前ちゃん、なんで会社辞めたんだ?』
『知らねえよ』
『携帯も変えたらしく繋がんねえんだけど』
『もうとっくに別れてっから知らねえよ』

すぐに新開から電話がかかってきたが、あいにく仕事真っ最中な午前中なので、そう簡単には出れない。

『仕事中だよ』
『仕事終わったら会えねえか?』
『いいよ』

面倒ではあるが、一度きちんと別れた事だけでも伝えておくかと夜会う約束をした。



荒北は名前と別れてから、自分から言った別れの言葉を何度も何度も後悔した。名前に好きだと言ってなかった事を後悔した。名前の話をきちんと聞けばよかったと後悔した。後悔ばかりだった。諦める、忘れるなんて、全然簡単な事ではなかった。何度も名前の会社前まで行った。けれど、どんな顔して会えばいいのだ、もしあの男と笑い合っている姿を見てしまったらと思うと、逃げるように帰ってしまう。



「靖友!」
「おー、久しぶりだな。仕事大変そうじゃナァイ。」
「そんなのどうでもいいよ!別れたってなんだよ!」

掴みかかってきそうな勢いの新開を制し、とりあえず近くの居酒屋へと入った。

「てっきり、聞いてるもんだと思っててヨォ。」
「知らねぇよ。俺ここ数ヶ月違う場所で仕事してる事が多くて、名前ちゃんとも朝礼くらいしか会わなかったから。」

新開は店員が運んできたビールを勢いよく流し込む。

「なんで別れたんだよ。」
「色々あったんダヨ。まぁオレと別れてもどうせすぐ側にいい奴いただろうから問題ねェだろうし。」
「誰の事言ってんだ?」
「あー新人くん?もう新人でもねェか。」
「はあ?アイツは名前ちゃんにはとっくに振られて、合コンで知り合ったっつう彼女がいるぞ。」
「はああああ?んだよ、それ。」

あんだけオレに色々言ってきたのにと荒北は腹が立った。

「そんでェ?なんで名前が仕事辞めてそんな慌ててんだよ。」
「いや、驚くだろ。朝普通に会社行って、いつも通りの朝礼の時に、突然会社辞めましたって聞かされたらさぁ。」

朝のメールの後、新開は上司から話を聞いた。
名前が辞めることは、上司と引き継ぎの社員と人事の一部のみで他の人には絶対に言わないで欲しいとお願いをされていたそうだ。携帯もその人達のみに新しい番号は伝えているが、他には言わないで欲しいとの事。新開には自分達が知っていると伝えたが、他の者から聞かれても知らないと答えているそうだ。なんで仕事を辞めたのかを聞いても、それは言えないの一点張りだった。だが、女性社員の噂が耳に入ってきた。
辞める1ヶ月程前からよくトイレで気持ち悪そうにしていた。吐いたりもしていたと思う。悪阻じゃないか。

「どうなんだよ。」

そう新開に言われた荒北の顔は真っ青だった。

「悪阻ってさ、人によってだけど2、3ヶ月頃から始まるらしいな。そう考えるとさぁ。」

荒北は心臓が早まり、全身で汗をかく。

「本当に…妊娠、してん…のか?」
「わかんねぇよ。本人に確認した訳じゃねぇし。」
「オレは…。」
「なぁ、靖友!しっかりしろよ!」

新開は荒北の肩を強く掴んだ。

「名前ちゃんと仲良かったって人が他の部署にいるみたいなんだ。俺はそれが誰だか知らない。でも見つけるから。その子に話を聞いてみる。」
「悪ィ、新開。頼む。」

名前は本当に妊娠をしているのだろうか、もしそうなら、名前が話したかったというのは妊娠の話しだったのではないか、でもただ体調が悪かっただけかもしれない。

新開と別れてから、その足で名前のアパートまで向かった。だが、思った通り、名前の住んでいた部屋は空室となっていた。名前の実家はどこだっただろうか、そういえば詳しく聞いた事は無かった。家族は?出身高校は?荒北は、自分の話は名前から聞かれていたから話してはいたが、名前の話はほとんど聞いていなかった事にも気付いた。

「あんだけ一緒にいたのに、オレなんも知らねェんじゃん。」

最悪だと呟きながら、自分の家へと帰った。




2020.06.19
monoGatari