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荒北は、名前の事を何も知らないから教えてほしいと言うと

「別に面白い事は何もないんだけどなぁ。」 

と言いながら、小さい頃からの話をしてくれた。
母親は、名前を産んですぐに父親の裏切りで離婚をした。再婚相手とは、名前が小学生の頃に出会った。形に拘らなくてもいいとの二人の考えで、名前が大学で家を出るまでは一緒に住む事すらしなかったが、母をひとりにする事が心配な名前は、再婚相手に一緒に住んでもらえないかと頼むと分かったと言い、一軒家を購入した。そこまでしたので、てっきり籍も入れるのかと思ったら、名前が卒業する迄は入れるつもりは無いと言われた。
無事社会人になり、数年経っても何も変わらない二人に、いい加減形に拘ってもいいと思うと言って、やっと籍を入れたそうだ。結婚してすぐに、義父に感謝の気持ちと母をこれからもお願いしますと伝えると、私は何もしていない、お金の面でも何度も頼って欲しいと言っても、もし苦しくなったらその時はお願いしますと言われたが、結局名前が大学卒業までの間、一度も頼られた事はなかったそうだ。だから、母親にしっかりと感謝しなさいと言われた。

今回の件で家に電話をすると、母親も義父もすぐに帰ってきなさい、ひとりでは心配だからここに住みなさいと言ってくれたが名前はそれを断った。今からそんな甘え癖はつけたくないからと言うと、義父は、母親そっくりだと大笑いした。けれども娘が大変な時に手を貸さない親はいないと言われ、義父の伝手ですぐ近くのアパートと、体に負担のかからないよう知り合いの会社でバイトを探してきてくれた。

「母親なんて、ほぼ毎日のようにここ来るんだよね。」
「そりゃ、親なら心配すんだろ。」

先程名前は実家に連絡した。荒北を連れて実家に行くと。

「そろそろ行くか。」
「そうだね。」

二人で名前の実家に向かった。歩いて2分。

「着いた。」
「エッ!」
「近いって言ったじゃん。」
「いや、そうだけど…別に暮らす意味あんのォ?」
「うるさい。」

荒北は、殴られたり罵られたりする覚悟は出来ていた。だが、家から出てきた二人は、予想とは違い、笑顔で迎えられ荒北は拍子抜けしてしまった。

「わざわざ遠くから来てもらっちゃって。」
「いえ、あの申し訳…」
「すまなかったな。」
「えっ?」

謝るのは自分のはずなのに、なぜ荒北が謝られているのかが分からなかった。

「突然荒北くんの前から姿を消すなんてな。まったく、私も名前から聞いた時は本当に驚いたよ。」

何の事だかさっぱり分からない顔をして、荒北は名前を見るとにっこり笑って頷いた。

「お義父さん、もういいじゃん。大丈夫、私は靖友と家族になるよ。」

その言葉を聞き、義父は涙を浮かべ

「荒北くん、名前とお腹の子をよろしく頼む。」

そう言って頭を下げた。荒北も頭を下げ

「はい。」

と答えた。
少ししてから、義父が名前のバイト先に行くと言うので、名前も一緒に行く事になった。歩いて10分もかからない場所らしい。

「靖友、先にアパート戻ってる?」

そう聞かれると母親が

「すぐに帰ってくるんでしょ?それならお母さんの話し相手してもらってるわ。」

と言うので、荒北も頷いた。
二人が出ていくと、母親は新しく入れ直した飲み物を持って、テーブルについた。

「荒北くん、私達はあの子から、子供を妊娠したけれど、自分には結婚する気がないから彼の前から姿を消したって聞いてたんだけど…本当は違った?」

驚いたが、なぜそんな嘘を付いたのかは何となくだが分かる気がした。荒北は、本当の事を伝えた。

「そうだったのね。おかしいなぁとは思っていたけど…。主人は疑いもなく信じ切ってるけどね。」
「全て、オレの責任です。」
「ふふっ、でも良かった。あの子には、私のせいで本当いっぱい苦労かけちゃったから。名前の事よろしくね。」
「はい、大事に、幸せにします。」

せっかくだから、実家に二人で泊まればとの誘いを名前は断った。

「久しぶりだから、靖友とゆっくり話したい。」

そう言って、夕飯を食べてからアパートへと戻った。



「お腹平気か?」
「うん、大丈夫だよ。」
「もうどっちか分かってんの?」
「まだはっきりとは分からないみたい。」

荒北は名前のお腹を優しく撫でている。

「靖友、パパになるんだよ。」
「アー、実感わかねェ。」

そうだよねと名前は笑っている。

「今は、名前がオレの目の前に居てくれる事が、マジで嬉し過ぎてナ。」

お腹を撫でていた手を名前の頭に乗せ撫でると、名前は顔を赤くして同じように荒北の頭を撫でた。




2020.09.17
monoGatari