06
「靖友。おめさん男だよな?」
「アァー言いたい事は分かってんヨ!」
「恋愛に関しては、いつもの男らしさのカケラもねぇな。」
荒北は返す言葉もなく、顔を横に向けた。新開の言いたい事は痛いほど分かる。もし荒北と新開が逆の立場なら、情けない男だと思うだろう。
「まぁ半年間、しっかり名前ちゃんを見て精一杯悩むんだな。」
「わかってんよ!」
最初の1ヶ月、荒北は意識して考え過ぎてか名前に気持ちが悪いから、いつも通りに戻ってと言われてしまった。
2ヶ月目、休みの日に行きたい場所を見つけたが、日帰りは難しそうなので荒北は1泊するかと提案すると部屋が別ならいいと言われ少し寂しく思ってしまった。
3ヶ月目、クリスマスにクリスマスっぽい事を思い切り楽しみたいと名前に言われ、いつもよりは少しオシャレなレストランを予約したりイルミネーションを見た。プレゼントは、やめておこうと名前に言われ、理由を聞くと
「物が残るのって辛いかなと思って。」
と言われ、名前はダメだった時も考えていたのかと思うと荒北は胸が苦しくなった。
初詣、どうしても連れて行けとうるさい新開も連れて三人で行った。途中、荒北は名前を連れて新開と何度もはぐれてやろうとするが、思いの外きっちり付いてきたので、途中で諦めた。
5ヶ月目、バレンタインの時、荒北はチョコレートと共に名前からのはっきりと告白をされた。
「私は、大学の時に靖友くんを知って、自転車に乗ってる姿、学食で頬いっぱいにして食べてる姿を見ているうちに好きになりました。隼人くんのお陰でこうやって話せるようになって、靖友くんの事もいっぱい知れて益々好きになりました。本当に毎日が幸せです。ありがとう。」
荒北は、自分から逸らさない名前の目をしっかりと受け止め見つめ返す。
「残り1ヶ月、会うのはやめよう。もしこんな私とこの先も一緒にいたいと思ってもらえるなら、ホワイトデーの時に今日と同じ時間、同じ場所で待ってるから来てほしい。……こういうのもいいでしょ?」
真剣に言う名前が、最後に悪戯っぽく笑った。
荒北は、本当は今すぐ返事をしようと思っていた。もちろん、名前とこの先一緒にいたいと。けれども、それはやめた。1ヶ月後、きちんと自信を持って伝えられるよう、名前にも安心してもらえるよう、自分もしっかりしなければならないと思った。
ホワイトデー、荒北は朝からついていなかった。携帯の目覚ましはかけ忘れ、その携帯も自宅に忘れて会社に着いた。さらには最悪な事に仕事でトラブルに巻き込まれた。他部署の事ではあるが、午前中から社員総出でトラブル対処をしているがなかなか終わらない。待ち合わせ時刻も迫っているが、まだ帰れそうにもない。とにかく今はやるべき事に集中する。終わったのは、待ち合わせから2時間半を過ぎていた。荒北は急いだ。名前はもういないかもしれない、それでも行かないという選択はなかった。着いた時にはまだまだ寒い時期だというのに、ひとり汗でびっしょりだった。
「あっ…。」
待ち合わせ場所にひとり立っている名前を見つけた。この寒い中、ずっと待っていてくれた。もうそれだけで、荒北の胸は締め付けられた。荒北はそのまま名前に近づくと、力一杯に抱きしめていた。
「ごめんな。」
しばらくして荒北が口を開いた。すると突然腕の中で名前が震えた。不安だったのだろうと思い、体を離して名前をまっすぐに見ると、名前は目にいっぱいに涙を溜めているがそれが溢れないよう必死になっている。そして、やっとの事で名前から出た言葉は
「そっか。うん…わかった。今まで本当にありがとう。」
「ハァ?」
荒北は、名前の言葉が初め理解出来ずにいたが、はっと気付いて慌てた。
「ちっ、ちっげーヨ!ごめんってちげーからァ!」
すると今度は名前が理解出来ないという顔で荒北を見た。
「遅れて、待たせてのごめんだからァ!」
そこで、やっと名前は意味を理解した。
「紛らわしい!抱きしめといてごめんってなんて奴だって思ったよ!」
「悪かったってェ。」
「もう本当信じらんない!」
「名前チャン、ゴメンネ。あっ、このごめんもちげーからな!」
「もう分かったよ。」
なんだこの雰囲気はと荒北は笑いそうになった。遅くなった理由を話し、再度ごめんと謝ると、こんな日に携帯忘れるのはどうかと思うけど、遅れたのは荒北のせいではないので気にしないと言ってくれた。
「名前、これからもずっと一緒にいたい。オレと一緒にいてほし…い。」
言い終わってから、荒北は恥ずかし過ぎて死にそうだと名前から顔を背けてしまった。
「1ヶ月すっごい不安だった。自分で言っておきながら…ね。でも良かった。」
名前はそう言って、荒北の手を握った。
「幸せにするからね、靖友。」
「それ、オレのセリフじゃナァイ?」
2020.02.14