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最近の名前は、予定なく学校から帰った日は、祖母と一緒に夕飯を作るようになった。その夕飯を祖父はいつも美味しいと言って食べてくれるのが名前にとって嬉しい時間だった。そしてその横で祖母が、私も作ってるのにと少し拗ねて、祖父も慌てる姿が楽しい。
「あらら、お醤油終わっちゃったねぇ。」
「本当だ。すぐに買ってくるよ。」
「ええよ。味付け変えよかね。」
「うーん、でもおじいちゃんお醤油の方が好きだよね。すぐ行ってくるから待ってて。」
「ありがとねぇ。ほんなら、他の作って待っとるから慌てんでええよ。」
名前はエプロンを外し、エコバッグにお財布を入れて家を出てすぐに玄関の中へと戻った。日中もだいぶ涼しくなり半袖では寒いと感じる季節に入ると、夜はそれなりに冷えていた為、上着を羽織り再び外へと出た。18時半にもなれば外はもう真っ暗で、つい最近まで19時過ぎまで明るかったのが嘘のようだ。500m先のスーパーへと歩き出したところで、向かいから大きい影が二つ見えてきた。
「おかえり。」
部活が終わった双子だった。二人とも肉まん片手に、治はさらに菓子パンも持っている。
「ただいまぁ。名前、どこ行くん?」
「スーパー。お醤油切らしちゃって。治、これから夕飯でしょ?食べれるの?」
「おん。問題ないわ。」
男の子の食欲に名前は驚きつつ、今後名前の家で夕飯の時は量をもっと増やさなければと思った。
「サム、どないする?」
「すまん、腹がもたん。」
「おん。じゃ、荷物頼んだ。おかんに言っといてや。ほな名前、行こか。」
どこに、なんで、なんて聞く必要もない。暗くなった道をいくら近くのスーパーだとしても、この双子は名前をひとりで歩かせる事はしない。
「侑は、お腹大丈夫なの?」
「そんくらい平気や。」
「ありがとう。」
治に荷物を預けた侑は、名前と帰ってきた道を戻って歩き始めた。最近では、時々部活の話をする様になった侑に、名前は嬉しかった。
「次は、春高なんだよね?」
「せやな。」
「侑も治も試合出るの?」
「おん。出るわ。」
「稲荷崎って強いよね。そこで1年生なのに二人とも出れるなんて凄いなぁ。いっぱい頑張ったんだね。」
「上手くいかん時もあるけど、とにかく楽しい。」
そう言い切る侑を名前は羨ましく思う。楽しい、それを名前はずっと言ってはいけない、感じてはいけない事だと思っていた。
「名前ちゃん、今日はどやった?」
事故後数ヶ月経った頃、学校から帰ってきた名前に祖母はそう声をかけた。どうだったか、その意味が分からず普通だと答えた。毎日毎日必ず聞かれたが、普通とだけ答えていた。それが夏休み、双子の忘れ物を届けて帰ると、また祖母に聞かれた。
「侑も治も凄かった。私も楽しかったと思う。」
名前は気が付かなかったが、事故後初めて楽しかったと言葉にした。祖母は嬉しそうに、そうか、と言った。
「名前は、毎日どや?」
「毎日?」
「せや。どんな感じなん?」
「学校には友達それなりに出来たと思う。」
「小学生かい!」
「楽しいと思う事も増えたよ。」
「そらええな。何しとる時楽しいん?」
「お喋り。」
「どんな?」
昨日見たドラマ、流行りのお菓子、ファッション、お嬢様学校と言われてはいるが、通っている生徒は他の高校の女子生徒となんら変わらない。違う所といえば、他の高校より少しだけ行動に女性らしさを求められる程度だ。
「いちばん多いのは恋バナ。」
「ほお。恋バナ… 名前、恋しとるんか。」
「してるように見える?」
「フハッ、見えんわな。」
「もっぱら聞き役だけどね。」
「なん、相談とかされるん?」
それは話を聞いているのだから、どう思うかと聞かれる事も多少なりともあるが、恋愛経験値がほぼゼロに等しい名前には、返答に困る事が多い。男子も恋バナとかあるのかと聞いてみた。
「サムと角名と銀やで。バレーか飯の話しかしとらんわ。……てゆーか、ほぼゼロってなんやねん。」
「なにが?」
「ほぼゼロって、好きな奴おった事あるん?初耳やで。」
「ああ、引っ越してくる前の事だし。」
「誰や。」
「誰って、言っても知らないでしょ。あ、でもその子もバレーやってたかな。いまは知らないけど。」
引っ越して来てから連絡は取っていないのか、どんな奴だったのか、今でも忘れられないのかと、侑の質問が止まらなかった。名前が引っ越す頃は、まだ携帯など持つ年齢では無かったので、引っ越し後2〜3回手紙を送って以降、まったく連絡はとっていない。
「連絡は取っていないし、お隣さんの家の子で、大人しめだけど優しい子。ついさっきまで忘れてた。ほら、スーパー着いたから。」
それ以上名前も言うこともないので、少しムッとしている侑をよそに、醤油を手に取りさっさと家へと帰った。
2023.02.18