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5月4日、毎年午前中に祖父母、父親、名前は、揃ってお墓参りへと行くのだが、今年は午前中が激しい雨だった為に、初めて午後からとなった。霊園へは、車で10分。バスも通っている場所なので、名前は月に1度は訪れている場所だ。

「お父さん、またそんなに花買ったの?」

トランクから出した仏花は、とてもではないが片手で持つには多すぎる量であった。毎年の事ではあるが、家から少し離れた場所にある大きな花屋で、父親は母親が好きだった種類の花が目一杯に詰め込まれた花束を買ってくる。

「今年もお母さんに会いたいからなぁ。」

父親はこの時期になると、供えた花束を持った母親がありがとうと笑う夢を見ていた。それが自己満足からきているものだとは思っていても、なかなか夢にも出てこない母親を見れるのであれば、それはとても幸せな事であった。

「お父さん達は、先に行ってて。私、水桶取ってから行くから。」

名前はそう言って、水桶が置かれている場所へと向かった。

上を向けば空はところどころ雲の隙間から陽が差してはいるが、まだまだ厚い雲に覆われている。下を向けば、濡れた地面と水溜りだ。あの日と同じ時間に同じ様な雨が降っていた。心臓が少しずつ早まってきた。名前は目を閉じ大きな深呼吸を何度か繰り返す。何度目かの深呼吸を終えた時、両手がふわりと温かくなった。ゆっくりと目を開ければ、名前の両脇にはジャージでエナメルの大きなカバンを持った双子が立っていた。

「どう、したの?」

名前の問いかけに、侑はそれはこっちの台詞だとフッと笑った。

「名前こそ、こんなとこひとりで何しとん。」
「水桶取りに。」
「俺持っとるから行こか。」

治の手を見れば、水桶とその中に仏花が入っていた。名前はありがとうと言い、三人で母親が眠る場所へと歩いた。

「毎年来てくれてありがとう。」
「おん。ここで会うん、初めてやな。」
「そうだね。」
「おっちゃんも来とるんやろ?」
「うん。」
「会うの久々やな。」

そう話していれば、なかなか来ない名前を心配してか、父親が歩いてくるのが見えた。

「侑くんと治くんか?ひさしぶりだな!」
「おっちゃん、元気か?」
「おっちゃん、縮んだんとちゃうか?」
「縮んでたまるか!二人は見た目もチャラくなったなー。」
「かっこええやろー!」

話し始めると止まらなくなる三人を置いて、名前は治がもつ水桶を受け取り先に向かった。墓石の前で待つ祖父母に、双子からと仏花を手渡し花立に水を入れた。父親が持ってきた花と双子からもらった花を二つに分け綺麗に飾っていると、やっと三人がやってきた。飾られた花を見て侑は、相変わらず凄い花だと、治は似合う花ばかりだと二人は笑った。祖父母、父、名前、双子と順番に手を合わせた。

「お父さん、私もう少しここに居るから先に帰ってて。」

一通り終わり車へと戻ろうと歩き始めた時、名前が父親へそう言った。待っていようかと父親の言葉に名前が首を横に振れば、分かったと頷いた。父親は双子に車に乗るかと聞いたが、名前を待つと言って断った。

「帰り気をつけろよ。」

そう言って父親は祖父母を連れて帰っていった。名前は双子に母親と二人で少し話をしたいから、先に帰っていいと伝えたが、二人とも待つと言った。

「入り口んとこおるから。」
「ゆっくり話しててええからな。」
「ありがとう。」

20分程経った頃、双子の待つ場所へと名前は向かった。長く待たせてしまった事を謝れば、それだけ伝える事が多いという事は、名前の毎日が充実してるという事だから良いことだ、と言われ嬉しく思った。

「二人のおかげだよ。いつも助けてくれてありがとう。」
「なんや急に。」
「俺は別に助けとるつもりはないで。ツムなんかは、迷惑しかかけとらんしなぁ。」
「はあ?何言うとんねん!迷惑なんてかけとらん!たぶん!」
「たぶん言うてもうてるやん。」
「喧しわ!」
「ふふっ、確かに侑は喧しいね。」
「名前!侑くん悲しいで!」
「自分の事侑くんて、キショ。」

また喧嘩が始まってしまったなと名前は思ったが、バスに乗ればそのうち治るだろうとそのままバス停まで歩く事にした。







その日の夜、名前の夢に事故後初めて母親が出てきた。母親はいつも見せてくれていた笑顔で、お母さんの事をいつも忘れずにいてくれ、みんなと仲良く過ごしてくれて、毎日を楽しく過ごしてくれてありがとう、これからの人生も毎日を大切に楽しくあなたが思う様に過ごしてくれれば、それがお母さんの一番の幸せよ。お父さんに大好きなお花ありがとうって伝えてね。

次の日、名前は自分の笑い声で起きた。そして少しだけ泣いた。リビングへと入ると、少し肩を落とした父親がコーヒーを飲んでいた。

「お父さん、どうしたの?」
「うん?うん…それがなぁ、お母さんと夢で会えなかったんだよなぁ…。毎年会えてたんだけど。今年の花は気に入らなかったのかなぁ。」
「そっか…。ごめん、お父さん。」
「どうした?」
「お母さん、私の夢に出てきたの。だからお父さんの夢行けなかったんだと思う。」

それを聞いた父親は目を見開き、みるみるうちにその目から涙が溢れている。名前は母親に会えなかった悲しみから泣いているのかと思い慌てたが、そうではなかったようで、父親は何度も頷きながら良かったと繰り返した。

「お母さんがね、お父さんにお花ありがとうって伝えてねって言ってた。」
「うん…うん…良かった、本当に良かった。」
「お父さん、私はもう大丈夫。今日の朝なんて自分の笑い声で起きちゃった。」
「そおかぁ…うん、うん。良かったなぁ。」
「ありがとう、お父さん。」

父親の涙はなかなか止まる事はなかった。


夕方、名前が庭の花壇に水を上げていれば、双子の言い争いが聞こえてきた。今日は双子の親がいない為、名前の家で夕飯を済ませる事になっていた。部活後に家に戻った双子は、それぞれお風呂を済ませてから来た。

「いやぁ、今日は賑やかだなぁ。」
「おっちゃん、いつもおらんもんな。」
「今はまた東京戻ったんやろ?ええなぁ。原宿行ってみたいわぁ。」
「ツムはやめとけ。」
「なんでや!原宿でクレープ食べて芸能人会いたい!」
「喧しいわ。」
「名前も芸能人見た事あ…」

双子のやり取りに、原宿にいてもそう簡単には芸能人と遭遇などしないと思ったが、原宿で燥ぐ侑にそれを引いた目で見る治を想像をすれば、思わず声を出して笑ってしまった。双子は目を見開いた。名前が昔のように声を出して笑っている。事故に遭う前の時と同じ様に。侑と治は一度見合うと何故かお互い手を握り合い、また視線を名前へと向けた。双子と目が合った名前は、どうしたのかとまだ笑ったまま聞いた。

「サム、名前が声だして…。」
「おん、ずっと聞きたかった笑い声や…。」
「二人ともなんで手握りあってるの?」
「そんなん!名前が笑ったからやろ!」

侑はそう言うと治と握り合っていた手を離し、名前を抱きしめた。そして治もその上から抱きしめた。名前は苦しく思いながらもなんとか両腕を伸ばし、侑と治の背中を優しく叩いた。

「侑、治、ありがとう。」




2023.04.29




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