04
「まだ梅雨終わらんのか。」
「せやなぁ。」
期末テストも終わり、間もなく夏休みだというのに、まだ梅雨明けの情報は入らない。
部活の休憩中、体育館のドア付近に立つ双子が考えている事は同じで、眉間に皺を寄せた表情で激しく降り続く雨を見つめる。
「サム、帰り傘入れてや。」
「無理や。なんでツムと相合傘せなあかんのや。」
「はぁ?俺が風邪ひいてまうやんか!」
「なんで傘持ってこおへんのや。」
「朝降ってなかったやん!」
「降るから持って行きておかん言うてたやろ。」
そんなの聞いてないと喚く侑に、治は盛大にため息をついた。
体育館が閉るギリギリまで自主練をした部員達が部室に戻り着替え始めたのは、20時少し前だった。案の定、治はお腹が空いたと動きが悪く、早く帰りたい侑に急かされている。
「サム、はよ着替えろや。」
「角名、今日なんも持ってへんの?」
そんな会話をしていると、治の携帯が鳴った。動かない治に代わり、侑が携帯を手に取り着信相手を確認して出た。
「なんや。」
『治?いま平気か?』
電話の相手は、友達名前だった。侑はそのまま話し始めた。
『侑、そばにおる?』
「えっ?あー?なんでや。」
『お前、侑やろ。治に代われや。』
なんでバレたんだと舌打ちしつつ、携帯を治へと渡した。
『治か?』
「おん。どーした。」
『あんな、今日学校で名前倒れたんよ。』
「あ?それで?いまどこや!」
「治落ち着けや。結果から話せば、大丈夫や。すぐにいつも通り戻って、帰りも一緒に帰ってきたし、さっき電話したけど、大丈夫や言うてた。」
侑に言えば、また最後まで話を聞かずに突っ走ると思ったので、治に連絡したと友達名前は言った。
その場を直接見ていなかった為、詳細は分からないが、一緒にいた子の話では、雨が降り始めた頃に、誰かの叫び声が聞こえ、それを聞いた名前は膝から崩れるように倒れたそうだった。
「ほんますぐに意識戻ったみたいで、わたしが保健室行った時には顔色も戻ってた。」
ただ心配なのは、その後名前に状況を聞いても、覚えていなかったのだ。その時雨が降っていた事も叫び声も覚えてはいなかった。無理矢理聞く事も負担になるだろうし、思い出したくないので忘れたかもしれない、と言う事で保健室ではそこで話は終わったが、念の為カウンセリングを受けた方がいいと言われた。
『とりあえず、帰りにちょっと顔出してやってや。』
「おん。分かった。ツムと帰り寄ってみるわ。」
友達名前は、名前に双子が行くと伝えておくと言って、電話を切った。
止まない雨の中、ひとつの傘の中で小競り合いをしながら名前の家へと着いた。チャイムを鳴らせばすぐに玄関が開き、パジャマの上からカーディガンを羽織った名前が出てくると、双子を玄関の中へと招き入れた。
「なんかごめんね。来てもらっちゃって。」
「名前、ごめんやないで。」
「せや、来たくてきとんのや。」
「うん。疲れてる中、ありがとう。」
気分は悪くないか、熱はないか、体は大丈夫かと双子は心配そうに質問をするので、名前はフッとまた一瞬だけ笑い、大丈夫、としっかりとした声で答えた。名前の一瞬の笑顔は、昔のよく笑っていた名前の表情に近く、それはまだ家族と双子と友達名前の前でしか見る事は出来ない。そしてみんな、またその笑顔が見たいが為に側にいる。
「名前、今度休みの日に天気良かったら、デートしよ。」
「………デート。」
「せや!俺とサム、まー仕方ないから、友達名前も一緒に連れてったる。他にも呼びたいやつおったらええし!」
「ツム、それデートちゃうで。」
「ああ?うっさいわ。ええやん!俺だって、今度の休みデートやねん!とか言いたい!」
「うん、みんなでデートしよう。」
「決まりや!楽しみやな!」
「まあ、ええか。ほな帰るで、ツム。」
もう一度双子に名前がありがとうと声をかければ、双子は同じタイミングで振り返り、侑は名前の頭に手を、治は名前の肩に手を置き、同じ顔で優しく微笑むと、玄関を出た。
じゃあ、またなと治が言い、ひとつの傘を広げる。特別大きい訳でもない一般的な大きさの傘に、体の大きな男二人が肩を寄せ合って入る姿に、仲良いねと名前が言えば、二人揃って良くないわと言って隣の家までの短い距離を言い争いながら帰って行った。
2022.10.05