14:料理と約束



なるほど。これは冗談か。
面白くないなと思っていると、実弥さんにぐいっと手を引かれた。

「明日は5時に門に集合なァ」

そう不死川さんに告げ進んでいく。
え、これ洒落じゃないの!?
慌てて不死川さんに助けを求める視線を送ると、彼は赤くなって震えていた。

誰も助けてくれないやつじゃない!

嘘でしょ!?

私食べてもおいしくないよ、って言ってる場合か!


実弥さんはそのまま私をひっぱって部屋まで連れてきた。
部屋に入ると実弥さんはやっと手を放してくれた。

「さささ、実弥さん!?冗談ですよねっ!?」

「はぁ!?ならお前は一人で外で寝んのかァ」

「いや、それはちょっと無理なので、せめて廊下貸していただけませんかね」

恐る恐る実弥さんを見上げると、面白そうに笑っていた。
うん、実弥さんの笑顔は好きなんだけど。

その顔はちょっと。

「いいから風呂入ってこい」

そういって宿にあった浴衣を私に投げ渡す。
状況が状況だけにさすがの私の顔も真っ赤になった。


とはいいつつ、一日歩いて疲れ果てた体に温泉の誘惑には勝てず、温泉に入る。
温泉はあったかくて、普段お風呂にゆっくりつかる機会なんてないから体の芯から温まる。

はぁ。極楽ー。

でもこの状況はさすがにまずいんじゃなかろうか。
大体実弥さん、この間の事で私の気持ちわかってるよね?
この間、最後まで言わせてもらえなかったけど。

それに。

こ、こないだみたいなことになったら、困るし。

なのに、任務についてきたり、部屋に一緒に泊まるってどういうことだ。
一向に気持ちの整理はつかない。

ずっと考え込んでぼーっとしてきたので、私は温泉から上がった。


部屋に戻ると、先に温泉に入ってきたのか、浴衣姿の実弥さんがいた。

「遅かったなァ」

のぼせて、風呂に沈んでんのかと思ったと笑う実弥さん。
いや、なんで、浴衣の前がはだけてるんですかねっ!?
いつもの隊服だとそんなに気にならないのに意識してしまっているせいか目のやり場に困る。
と、部屋の戸が叩かれる。

「お食事をお持ちしました」

まさか部屋で、しかも食事なんて用意してもらえると思っていなかったので驚いた。
向かい合って食事を用意してもらう。
最近の食事は基本的に芋と山菜料理ばかりなので、目の前の魚の塩焼きに目が輝いた。

「・・・いただきます」

どれもこれもおいしい。
そして、誰かと一緒に食事をとることは普段ないので、とてもうれしい。
思わずへにゃりと笑うと、まだ食事に手を付けてなかった実弥さんと目があった。

「おいしそうに食うなァ」

食べるとこ見られてたんですね、恥ずかしい。
そういって彼も手を合わせて、食事を進める。

「実弥さん、実弥さん。この青い小鉢に入っている里芋が絶品ですよっ!」

「おー」

興奮気味にいう私に一つ一つ反応しつつ、彼と私は食事を終えたのだった。
食事が終わると本当にすることがない。
というか、並んで引いてる布団が気になってしょうがないんですけど。

「変なこと考えてんのかァ」

何となく縁側で固まっていると、後ろから声をかけられ、私はヒィと声がでた。
あ、変な声出た。忘れてほしい。

「・・・今日はよく歩いたな」

隣に座る実弥さんはとても優しく微笑んでいる。
粂野さんと笑い合っていた時のような笑顔に私はきゅっと心が締め付けられた。

「・・・たまには外にもでないと・・」

ずっと薬園にいるから、私はあまり外に出ることがない。
薬園も長期で離れられないし、帰りたい場所もない。
ふと、このあたりが、以前の自分の家の近くだと思いあたった。

「そういえば知ってますか?この近くの川の近くに桜がたくさん咲いているところがあるんです!」

昔、まだ苗字があった頃、家の使用人がよく連れてきてくれていた。
桜は満開も綺麗だが、散り桜も美しい。
散った桜が川に流れる様子も私はまた、好きだった。
桜が満開になる頃、私は何時も桜を見に立ち寄っていた。

「来年、一緒に見に行きましょう」

実弥さんはさみしく笑った。

「・・・行けたらなァ」

日々、命を削ってる人に不謹慎だったかなと心配になる。

「じゃぁ約束してください!」

すっと、小指をだした。

「あ?」

実弥さんは面食らったような顔をする。

「来年も、再来年も、何度も一緒に桜を見にいきますって」

ずいずいっと指を差し出すと、ためらうように指を絡ませてくれた。
指切った!っと指を離すと、なんだか気恥ずかしくなってへへっと笑って見せた。

「じゃぁ、そろそろお子様は寝ろよォ」

どうせ疲れてるんだろォとぐいっと手を引かれ、実弥さんに抱きかかえられた。

にかいめーーーー!

私死ぬやつーーーー!

「また顔隠してんのかァ」

笑う声が聞こえ、すとんと布団におろされ上から毛布を掛けられた。

「じゃぁ寝ろよ」

いやいや、横で寝そべられて頬杖つきながら見つめられている状況で寝ろと。
今の真っ赤な顔見られたくない。
穴があったら入りたい。
顔の半分まで毛布をかぶって抗議した。

「・・・ちょっと、いやかなり寝にくいです」

「そうかァ」

からかうように笑いながらも彼は離れてくれない。

「いいから。目潰れェ」

そういって強引に私の目をつぶらせると、頭を優しく撫でられた。
ふっと体から力が抜けると、夢の世界にすっと引き寄せられる。

ああ、今日はよく歩いたもんな。

恥ずかしいって思っているのに、だんだんと彼の視線が見えなくなる。
意識を手放す瞬間に。

「―ごめんな」

小さく彼がつぶやいた声が聞こえた気がした。


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