15:仮の恋人と笑顔



朝。
ばっと目を覚ますと実弥さんはいなかった。
昨日彼が着ていた浴衣は丁寧に畳まれ、隊服と彼の日輪刀がない。
私は疲れ果てて寝てしまったけど、どうも呼び出しがかかった様子だった。


約束の時間に門にでると不死川さんが先に待っていた。

「不死川さん!」

声をかけるとあ、という顔をした後、不死川さんの顔は真っ赤になった。
うん、だって私風柱様と一緒にお泊りしちゃった人だもんね。
これは一部にバレたら殺されるやつだ、いろんな意味で。
何もなかった、なんて言い訳にもならないからあえて何も言わなかった。

「あれ?風柱様は?」

実弥さんの姿が見えなくて不死川さんがあたりを見回す。

「夜に呼び出しがかかったみたいなんです」

「あぁ、そうなんですね」

なんとなくぎこちない雰囲気ながらも、宿の旦那様にお礼を伝え二人で山へと出立した。
お目当ての薬草はすぐに見つかり、持ってきていた籠いっぱいにとることができた。
これだけあれば、しのぶ様の要望にもかなうことができるだろう。
不死川さんにお礼をいって、帰り道を急ぐ。


「不死川さんは―」

「玄弥でいいですよ。俺のが年下だし」

帰り道はだいぶ打ち解けた玄弥くんと話ながら帰る。

「玄弥くんは、実弥さんと兄弟なんですか?」

「兄貴には認めてもらえないでしょうけど。そうなんです」

微妙に歯切れの悪い返答で苦笑しつつ、玄弥くんは教えてくれた。
複雑な事情でもあるのかな。
自分のところも胸を張って言えた家庭事情ではないので、深くは突っ込まないでおく。

「それをいうなら聞きたいんですけど」

「うん?」

「・・・名前さんは兄貴の恋人なんですか?」

「なっ!?」

直球で来すぎて顔がこわばった。

「いや・・・恋人じゃないです」

そうなりたくないわけじゃないけど。
そういうと玄弥くんは意外という顔で私をみた。

「・・・そうなんですか」

ふと考えるように玄弥くんは黙り込んだ。

「・・・俺、鬼殺隊にきて兄貴に追いつきたくてずっと兄貴の背を追ってたんです」

「うん」

「普段言葉を交わすことないんですけど、いつも兄貴のことは見てて」

「昨日、久々兄貴と一緒に過ごして」

きゅっと口を結びながら玄弥くんは私をみた。

「あんなにやさしく笑う兄貴を初めてみた」

「え」

ふと薬園でいつも笑う実弥さんの笑顔が思い起こされた。

「あんなに優しい顔になるのは名前さんといるからかなって」

「俺の個人的な話だけど」

「すごくうれしかった」

「だから、名前さんみたいに兄貴のこと笑顔にできる人がいつも傍にいてくれるとうれしいなって思ったんです」

なんかすみません、勝手に、といいつつ、玄弥くんは下をむいた。

「あ、兄貴に言わないでくださいね!」

殺される、、、と言いつつ赤くなる彼の横で。
私も死にそうなくらい赤い顔をしていた。

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そのあと無事に蝶屋敷まで到着し、しのぶ様に薬草を渡すことができた。

「色々と大変でしたね。ありがとう」

笑顔でしのぶ様に言われ、心が温かくなった。
良かった。歩きなれてないけど頑張ってよかった。
蝶屋敷を出たところで玄弥くんのほうに向きなおる。

「玄弥くん、ついて来てくれて本当にありがとうございました」

「いや、役に立ってよかったです」

また顔を赤くする彼を笑いながらお礼を言った。

「今からまだ薬園の作業するんですか?」

「うん。暗くなるまで、できる範囲で」

「じゃぁ俺も手伝います」

「え」

いやいや、せっかくの非番をつぶしてまで私について来てくれたのに申し訳ない。

「玄弥くんはゆっくり休んで。私は一人で大丈夫ですよ!」

「いや、あの、前に兄貴もここで作業してたんですよね?」

どんな感じだったのか、やってみたいな・・とさらに顔を赤くする玄弥くん。

かわいらしい。と言ったら彼には失礼だろうな。

でも、そんな風に興味を持ってくれたのはうれしかった。

「・・・地味な作業で良ければ」

一緒にやりましょう!と笑っていうと彼も笑顔になった。

「笑顔、実弥さんに似てますね」

そういうと、彼は輝く瞳で私を見つめる。

「に、似てますか!?」

嬉しい・・と小さくこぼしたのを私は聞き逃さなかった。


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