18:音柱の嫁と選びもの



実弥は不機嫌だった。

非番の日に、急に宇髄に呼び出され町に来ているからだった。
対照的に笑顔の宇髄に一層苛立ちが増す。

「そんな表情すんなよ!派手に選ぼうぜ!」

「そうですよ、風柱様」

「チッ」

そしてなぜか呼び出された先には、宇髄の嫁の3人も一緒だった。

-------------------------

先日、屋敷での会話を名前本人に聞かれた後。
自分以上に慌てた宇髄と冨岡に、早く名前を追いかけろと掴まれた腕を振りほどいて。

「いいんだよォ」

と、溢したものの。

「お前、自分がどんな表情で言ってるかも分かってねーだろ」

と宇髄に突っ込まれ。

「らしくないな」

と冨岡にまで、言われ。
心底腹が立ったが、名前の切なそうな顔を思い出すと怒る気にもならなかった。



自分は鬼殺隊で、鬼を抹殺することに命をささげる覚悟でいる。

いつ死ぬかもわからない。

そんな自分が、名前の隣に立つことはふさわしくない。

彼女と仲良くなればなるほど。

思いを寄せれば寄せるほど。

そう思うようになった。



あの日。

月明かりの中、一緒に帰った時。

微笑む彼女の顔を一生隣で見ていられたらと思った。

ずっと自分の事だけを思ってくれたら、なんて欲が湧いてくる。

彼女が好意を寄せてくれているのはわかっていた。

でも、自分も彼女に思いを寄せるほど、恐怖するようになった。

明日、自分は命を落とすかもしれない。

残された者の辛さは、掬い取れなかった命の分だけ嫌というほどわかっている。

彼女のことを思うと、自分ではない誰かと一緒に幸せになるべきだと。

自分の気持ちに、必死に蓋をした―。

--------------------

「あれから名前ちゃんに、会ってないんだろ?」

「ケンカしたんですって?なら贈り物を持って謝ればきっと彼女も喜んでくれますよ!」

わいわいと楽しそうな宇髄たちをよそに、俺の気持ちは冷めていた。


今更、何を。

あんな切なそうな顔をさせておいて、どの面が。


「風柱様」

宇髄の嫁の一人が話しかけてくる。

「その子にはどのような髪飾りが似合いますかねぇ」

屈託なく笑っていうものだから、無下にもできず、さぁなァと返事をした。

「じゃぁお店の中でじっくり選びましょ!」

気の乗らない俺の手をぐいぐい引っ張っていく。

力強いな。

振り払うのもなんなので、そのまま店の暖簾をくぐった。


----------------------------------

店の中には色とりどりの髪飾りが並べられており、宇髄の嫁3人は目を輝かせてあれこれと手に取っている。

嬉しそうな3人の様子を入り口付近で宇髄と2人立って様子を見る。

どうしてこうも女は買い物に時間がかかるのか。

これといったものも決まらず、時間だけが過ぎる中、段々と落ち着きがなくなる。

「この間名前ちゃんに送った着物もお前が選んだんだから、同じような色がいいんじゃねぇの」

宇髄がそういって、嫁に告げると、

「その色ならこのあたりにありますね!」

「須磨。一等派手なやつ選んでやれ!」

「はい!」

須磨、と呼ばれた嫁はあれでもないこれでもないと悩んでいたが、一つの髪飾りを持つとこちらにやってきた。

「これなんてどうでしょう」

目の前に差し出された髪飾りをゆっくりと手に取った。

先日名前が着ていた着物と同じ色の髪飾りに、ガラス細工がついたものだった。

名前が髪につけて微笑んでいる様子を思い浮かべ、口元が緩んだ。

「そうだなァ」

「!風柱様、笑えるんですね!」

返事をすると、須磨はまるで珍しいものでも見たように目を輝かせた。

「はァ?」

「風柱様をそんな笑顔にさせるなんて、名前ちゃんは本当に愛されてるんですね!」

人の気も知らず、また騒がしくなる宇髄たちを見ながら、どんな顔で渡したもんかと思案した。


prev novel top next

MONOMO