20:風柱と岩柱の継子
実弥は困惑していた。
先日、結局宇髄とその嫁たちに促されて買った髪留め。
それを渡すよう何度も念を押されて、なぜか宇髄と一緒に薬園に向かうことになった。
「絶対渡さないだろうから、俺が派手に着いて行ってやるぜ!」
との言葉の元、ほぼ連行といった感じで薬園に連れて行かれる。
何度もその強引な手を振りほどこうとしたが。
「お前のためじゃねーよ。名前ちゃんのためだろ」
などと言われれば、どう返事をしてよいかわからず。
どういった表情で会えばいいと何度も自身に舌打ちをしつつ。
着いた薬園にはいつもそこにいるはずの彼女の姿は見えなかった。
顔を合わせずに済むと少し安心したが、同時にどうしたんだろうかと疑問に思う。
以前、匡近が言っていたが、彼女は年中薬園の世話をしている。
不在にしているなんて珍しい。
「名前さんにご用ですか?」
訪ねられて振り向けば、胡蝶のところで見かけたことのある女の子が立っていた。
「ああ」
「名前さんなら、体調悪くて倒れたので蝶屋敷で治療中ですよ」
「!大丈夫なのかっ!?」
「だ、大丈夫ですよ。今はまだ安静に、とのことで寝ていますけど」
驚いたと同時に勝手に体が動いた。
名前は無事だろうか、この目で確かめたい。
後ろから宇髄ががんばれよーとか何とか言っているが、よく聞こえなかった。
蝶屋敷について胡蝶に名前の部屋を教えてもらい訪ねていく。
部屋の扉は開いていて、入ろうとするが気配を感じてなんとなく立ち止まる。
中を覗いて固まった。ベッドに寝ている名前を誰か知らない男が抱きしめていた。
手に持った紙袋に力がはいる。
心がかき乱される。
醜い気持ちを必死にこらえる。
認めないわけにいかなかった。完全に嫉妬心だった。
なんて、身勝手な。
あれほど、彼女とは距離を置くと自身で言っておきながら。
今この胸に抱いている気持ちをどうしようもなく持て余した。
見ていられなくて、その場を後にする。
「チッ」
部屋から離れて舌打ちをした。
幼稚な感情に振り回される自身が憎い。
「どうしました?」
通りすがりに出会った胡蝶に尋ねられたが、歩みを止めず、手に持っていた紙袋だけぶつけるように彼女に渡した。
「捨てとけェ」
「え?塵なら自分で処分してください?」
嫌味のような彼女の返答にも返事をせず、屋敷を後にした。
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「そろそろお暇しよう」
私の隣に座っていた兄はすっと立ち上がった。
「無理せずにな」
「兄さま、ありがとうございます」
私の頭を撫でると、少し顔を緩めて兄は去っていた。
かわりにしのぶ様が部屋に入ってくる。
「名前、体調はどうですか?意識ははっきりしてます?」
「しのぶ様、心配をおかけして申し訳ありません」
私の額に手を当てて様子を見ながら、大丈夫そうですね、としのぶ様は微笑んだ。
「不死川さんには会いました?」
「?実弥さん、ですか?」
なぜ急に彼の名前がでてきたのか、皆目見当がつかなかった。
よく意図が理解できなかったが、いいえと首を振った。
「そうですか。ではこれ、彼から名前に、と」
なぜか握り締められたように潰れてしまっている紙袋をしのぶ様は差し出した。
「・・・私に、ですか?」
私はますます困惑した。
どこかで私が体調悪いと聞いたのだろうか。
お見舞いでくれたのだろうか。
微妙な繋がりに縋るくらいなら、いっそのこと切ってしまったほうがいい。
先日の胸の痛みが甦ってきて、受け取るのを戸惑った。
「・・・ここに置いておきますから、体調良くなったら受け取ってくださいね」
名前が受け取らないならただの塵ですから、そういってしのぶ様は部屋を後にした。
ベッド横の棚の上に置かれた紙袋を見つめる。
痛い体を起こして、なんだかとても緊張しながら手を伸ばした。
袋開けて中身を取り出す。
「・・・綺麗」
先日、実弥さんの屋敷に着て行った着物と同じ色の髪飾りだった。
ガラス細工がついていて、窓越しに透かして見るとキラキラと輝く。
何故、どうして、実弥さんは私に―。
理由はよくわからなかったが、贈り物は単純にうれしくて。
そっと抱きしめて、私はまたベッドに横になる。
そのまま、ゆっくりと眠りについた。
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「風柱様!」
蝶屋敷で嫌な光景を見た後、殺気も隠さず足早に歩いていると声をかけられた。
苛々としながら声のほうに振り返る。
「お前・・」
驚いて声が漏れ、足を止める。
蝶屋敷で名前を抱きしめていた男だった。
また先程の醜い感情が浮きだってきそうで、必死に堪える。
「何の用だァ」
殺気をはらんだ声で返事をすれば、男は自身の前まで走ってきて止まった。
薄く張ったような表情で俺の顔をみる。
その顔はどこかで見たことがある気がした。
「ご挨拶は初めてですね。苗字 清春と申します。岩柱様の継子です」
ああ、そういえば、悲鳴嶼さんのところで姿を見かけたような。
「名前の兄です」
微笑むその顔は名前の面影があった。
名前に兄がいるなんて、ましてや鬼殺隊にいるなんて聞いてない。
そういや、名前は以前から苗字を名乗っていなかった。
苛立ちより、なぜか安堵している自分がいた。
「先程蝶屋敷にいる時に、殺気を感じたので慌てて追いかけてきたのです」
あなたでしたか、とつぶやく。
「名前に会いに来たのではないのですか」
「うるせェ、お前に関係ねぇだろォ」
「そうですね」
悪びれる様子もなく目の前の男は告げる。
「でも、風柱様と名前が仲がいいとの話は、兄としては気になるわけで」
挑戦的な視線に一層苛立った。
「黙れ」
話すことはないとその場を振り返らずにその場を立ち去る。
「・・・否定はしませんでしたね」
清春は去っていく姿を見ながらつぶやいた。
MONOMO