21:水柱と血鬼術
蝶屋敷で倒れてしまってから数日経った。
順調に体調は回復し、すぐに退院することになり、しのぶ様やアオイちゃんには何度も頭を下げた。
薬園に戻って、あの頂いた髪飾りはどうしても着ける気にならず、家の箪笥の一番奥にしまっておいた。
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数日経ったある日。
「名前!」
懐かしい声に呼ばれ、私は振り返り目を見張った。
「真菰、錆兎っ」
懐かしい二人が薬園の入り口に立っていた。
「久しぶり!元気にしてた?」
「真菰と錆兎こそ!帰ってきたんだね!」
呼吸も使えない私が最終選別で死ななかった理由。
それはこの二人によるところだった。
同じ選別に参加したこの二人が、ほぼすべての鬼を倒してしまったのだ。
そのためその時の最終選別では多くの生存者がおり。
私はたまたまその時の運の良い参加者となることができた。
その後、家に帰ることもできず、行き場のなかった私を鱗滝さんのところに連れて行ってくれたのも二人だった。
鱗滝さんは私の家の事情を知っていたようで。
私のことを考えてくれ、この蝶屋敷での生活を勧めてくれたのだ。
その後、二人はすぐに実力を身につけて。
錆兎は水柱に、真菰は水柱の補佐として活躍している。
ただ、二人は修行が足りないと各地で鬼を倒しながら転々としていたのでここに寄るのはだいぶ久しぶりな気がする。
「名前ー。会いたかったよー」
「私もだよ。真菰」
「元気だったか」
「うん」
「の割には目の下にくまなど作って。睡眠がしっかりとれていないのではないか」
錆兎と真菰の優しい笑顔は、選抜で生き残った時と同じだ。
でも、正直錆兎には会いたくなかった。
なぜなら彼は、直感が鋭くて。
そして時々私にとても優しい笑みを浮かべてくれるから。
「時に名前」
錆兎の声が、一つ下がった。
背筋がびくりと伸びる。
「不死川と良い仲だと聞いたが本当か」
待って、待って。
噂話って回るの早くない!?
まさか錆兎や真菰までその話を知っていると思わず、息をのんだ。
「それは・・・・嘘です」
「・・・・そうなのか?」
少し意外そうに錆兎が言った。
いったい誰からその話を聞いたんだろう。
誰から聞いたにしても、今ここでその質問されるのは刺さるものがある。
「・・・そうか。ならいい」
ならいい、とは?
「では、取り急ぎ俺と祝言を行おう」
「そう・・・って、はいぃ??」
私は慌てて錆兎を見た。
笑顔だけど、目が、笑ってない。
大体、冗談でこんなこと言う人じゃない。
すがるように真菰をみると無表情な顔をしていた。
どんな感情なの、それ。
「じょ、冗談でも、そんなこといわないでよ」
「冗談ではない!!大体、前回別れる前に待ってると言ったのはお前じゃないか!!」
ええ〜言った??私そんなこと言った???
真菰をちらりと見ると、寄ってきて耳打ちされた。
「ごめん。鬼の(ご都合)血鬼術にかかってるから・・。女性を見たらすぐ惚れるの・・」
「そうなの!?」
「会う女性、会う女性に声をかけようとする錆兎を止める私の気にもなってみて」
今までの状況を思い出したのか、真菰は顔が死んでる。
いや、でも助けて真菰。
「錆兎、それは大きな誤解をしてるよ」
「何故だ。名前は俺が嫌いなのか」
「嫌いじゃない、嫌いじゃないっ!けど、そういうのは順序があるし」
「そうか・・・。急に悪かったな」
錆兎もわかってくれて―
「では、まずは付き合うことから始めよう」
なかったーーーー!!!
「いや。ちょっと待って。大体、錆兎は私のこと好きなの?」
「そうだが?」
さらりと言われてこっちが顔が真っ赤になった。
好きって。
そんな、簡単に言わないでほしい。
言えなかった事を思い出して、視線が下がる。
「はいっ!」
急に掌を叩き、真菰が会話を遮った。
「錆兎、急にそんな話されても名前も困ってるよ。いったん屋敷に帰って落ち着こう?」
「そうか。仕方ない。また明日会いにくる」
頻度ーーー!明日って早くない!?
真菰はそんな錆兎をぐいぐいと引っ張って去っていく。
明日になって、錆兎も落ち着いてくれてたらいいなと祈りながら思った。
MONOMO