24:可憐な愛情



薬園に戻ったって、すぐに誰かがくるかもしれない。

離れた場所に来たくて、私はとにかく息が切れるまで走った。

と言っても、すぐに息切れして、走るのが辛くなる。

近くの川べりまで勢いそのままに走り降り、息を整えながらその場に座り込んだ。

「もう、本当にやだぁ」

恥ずかしさと、言うつもりのなかった恋心がまた花開いたようで苦しかった。

泣いても泣いても涙があふれてくる。

もはや何の涙かわからない。

好きだなんていうつもりなかったのに。

言っても困らせるだけってわかってるのに。

実弥さんにはいつも笑っていてほしいと思っているけど、私はいつも困らせてばかりだ。

「はぁ・・・」

「深いため息だなァ」

声が聞こえたほうを反射的に振り返る。

腕組みをした実弥さんが立っていた。

久しぶりにじっと私を見る瞳は夕日に照らされ優しい橙色をしている。

「・・・何しにきたんですか」

きっと酷い顔になってる。

見られたくなくてそっぽを向く。

何も言わずに実弥さんは私の前にやってきて、視線を合わせるように座り込んだ。

目線が同じになって彼は微笑む。

「酷い面してんなァ」

笑って彼は指で私の涙をすくう。

そういった一つ一つの行動が、もう今後、許される事はないって思っていたから。

嬉しくなってしまう自分は本当に浅はかだと思う。

「誰のせいだと」

恨み言を言っても、実弥さんは優しく笑うばかりだった。

「名前、俺は―「私、実弥さんのことが好きです!」

私は彼の言葉を遮った。

やっと。

やっと言えた。

どうしても、今、1秒でも早く彼に伝えたかった。

伝えなくちゃと使命感に駆られた。

ほっとして、また涙があふれ出てくる。

ふと何も言わない実弥さんが気になって、彼をみると片手で口を押えてる顔は真っ赤だった。

「っとにお前はァ・・」

優しく笑ったかと思うと、口づけられる。

すっと口が離れた後、ぎゅっと抱きしめられた。

「俺も名前のことが好きだァ」

耳元で言われる甘い言葉。

信じられなくて、耳を疑う。

「・・・嘘だ」

「・・・嘘じゃねェ」

「・・・本当に?」

「ああ・・。故意に遠ざけて悪かったァ。名前といないことがお前の幸せだと思ったが・・。気持ちに嘘がつけなかった」

「勝手に私の幸せを決めないでください。実弥さんのそばに居られることが私、幸せです」

「俺もだ」

その返事に思わず私も彼の背中に手を回して抱きしめた。

ああ、体温が高くて溶けてしまいそう。

「実弥さん、好きです。大好きです」


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