23:思いと感情



特別な関係とあえて、明言しなかった。
このままこの関係が終わってしまえば、それはそれで好都合と思っていた。

名前の薬園と近いから、と近づかないようにしていたのに、まさかすぐに蝶屋敷で会うと思っていなかった。
久々に会った名前も驚いた様子で、こちらをみたが気まずそうにすぐに顔をそらした。

まぁ、そうだろう。
以前の屋敷での別れから、顔をしっかりと合わせたのは初めてだ。
空気が一気に冷めて淀んだような気がする。
胡蝶が空気を読んだのか、名前に帰るよう促した。



「・・・・まだ付き合ってなかったんですか?」

傷の治療をしながら急に胡蝶に問われた。

「あァ?」

「あの子の前では自分がどんな顔してるかご存じないんでしょうね」

心底、呆れ果てた様子で胡蝶は告げる。
強く反論してもいいところだが、何故だか言葉に詰まる。
突いた事を言われたからかもしれない。

「はい。これで治療も終わりです」

「悪ィな」

帰ろうと玄関に向かうと何やら騒がしい。
名前と久々に会った鱗滝が何やら言い合いをしていた。
二人は知り合いだったのか。

手が繋がれていることに気付いて、苛立ちを覚えた。

彼女にはそういう人がいたんじゃないか。

でも、疼いてきたのは安心ではなく羨望の気持ちだった。

心と裏腹に彼女を攻め立てる言葉ばかりを吐き出す。

たまらなくなったのか彼女は叫ぶように反論する。

ああ、そんな言葉が聞きたいんじゃない。

そんな顔をさせたいんじゃない。

彼女は叫んだ。

「好きだって言わせてもくれない貴方よりは、ずっといいですっ!!!」

一瞬何を言われたのかわからなかった。

が、叫んだ言葉を理解すると溢れてくるのは満たされた気持ちだった。
彼女は真っ赤になって飛び出していった。



名前がいなくなって、最初に口を開いたのは胡蝶だった。

「名前があんなに感情的になるのは初めてみました」

そんな中、空気が読めないのか、鱗滝がすっと胡蝶の手を握る。

「胡蝶、ずっと会いたかった。俺と付き合ってくれ」

「頭、大丈夫ですかぁ?」

胡蝶が握られた手を払い除けながら、今にも切りかからんとする。
そんな胡蝶と鱗滝の間に、水柱の補助が割って入った。

「大丈夫じゃないんですー!錆兎、血鬼術にかかっててしまって。胡蝶様に見てもらおうと」


2人は思っていたような関係でなかった。
ふと湧いた安心感に心落ち着けていると胡蝶が振り向いた。

「・・・・名前もいつもあなたの前だけの表情をしていますよ」


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