07:炎柱とお芋



それから季節は流れ秋になった。
不死川さんは柱になって本当に忙しいみたいで、柱になるって聞いてから一度も顔をみていない。
さみしい気もするけど、柱になるってすごく大変なことだし。
元々柱様って、私なんかが気軽に会える人じゃないし。
自分から会いに行く気にはなれないでいた。

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そして秋といえば私には一大イベントが待っている。
一区画一面に広がる芋畑。薩摩芋の収穫時期なのだ。
この芋たちを収穫して炎柱様に届けるのが私の秋の大仕事になっている。
まずは芋をすべて掘り返して押し車に乗せる。
泥をのついた芋をそのまま地面に並べ天日干しさせた。

「ふふっ。今年もいい感じに育っているな〜」

完全に独り言なんだけど、丸々している芋を前に言わずにいられなかった。
少しだけ自分のためにと袋に入れ、泥を落としたあとは押し車に入れて炎柱様の家まで届けにいった。

あまり柱様の屋敷に寄ることがないので、寄るときはいつも少し緊張する。
屋敷前につくと、近くに居た隠に芋を届けに来たことを告げてほしいと伝えた。
しばらくすると、ドタドタと近づいてくる足音がする。
同じ炎の髪色をした二人が現れた。
いつみても、二人の顔がそっくりでかわいらしく笑顔になる。

「名前!久しいな!」

「今年も来てくれたんですね!」

「杏寿郎さま、千寿郎さま、お久しぶりです」

深々と頭をさげた。

「今年の芋の出来はどうだ!?」

「今年もおいしいお芋ができたと思います」

「そうか!」

杏寿郎さんはよもや!とつぶやきながら、押し車に乗せてきた芋を覗き込んでいる。

「いつもありがとうございます。こんなにたくさんのお芋、持ってくるの重かったでしょう?」

つぶらな瞳で見つめてくる千寿郎さまに思わず微笑んだ。

「大丈夫です!体力ないですが、これしき」

「よもや!俺でよければ鍛えてやろうか!」

「・・・杏寿郎さま、大変嬉しいですが遠慮しておきます」

本当に死にかねない。
自分の屍がありありと浮かんで顔が引きつった。
そうか!残念だ!!と勢いのいい杏寿郎さまを見ながら引き下がってくれた事にほっとした。

「では私はこの辺でお暇します」

「む!茶ぐらい飲んでいったらどうだ!」

「いえ、まだ仕事も残ってますし」

仕事といっても、土いじりだけど。
そうか!と言って杏寿郎さまは微笑んだ。

「じゃぁ今度礼をもって伺おう」

「ありがとうございます。ほんとーに時間があればでいいです」

「名前はいつもそうやって一歩引いて話すのだな」

思わず顔を上げた。相変わらずのキラキラとした目で杏寿郎さまは私を見つめている。
私の自分の在り方について言われていると気づいて、ふと口をつぐんだ。
彼の目はなんでも見透かしているようで時々怖くなる。

「その時は私も伺いますね!」

千寿郎さまも明るい笑顔で言ってくれた。

「ふふ、ありがとうございます。では私はこれで―「名前?」

本当に帰ろうとしていたところで、名前を呼ばれ振り返った。
ずっと、会いたかった顔を見つけた。

「不死川さん」

「なんだァ、煉獄と知り合いだったのかァ?」

私がいたのが意外だったらしく、不死川さんは少し驚いた表情をしていた。
久しぶりに会った不死川さんは・・・また傷が増えた気がする。
前回の、その別れ際のことが思い出され、私は少し顔が赤くなった。

「なんだ!不死川とも知り合いなのか!」

名前は顔が広いんだな!!となんだかうれしそうな杏寿郎さま。

「杏寿郎さまに用事ですか?」

聞いた瞬間、青筋が立った気がした。
あ、機嫌悪そう。

「あァ!?お前に関係ないだろォ」

あれ急に怒ってる。なぜだ。
私なんか地雷踏んだかな。
もしくは久々に会いすぎて私のこと忘れてる可能性。

「あ、私のこと忘れちゃいました?」

「お前ェ!!俺を馬鹿にしてんのかァ!?」

「女性にそんな言い方するものではないぞ!不死川!」

ははは!笑う杏寿郎さまに対し、千寿郎さまはおろおろと不死川さんの顔を見ている。

「なんか・・ごめんなさい?私もう帰るところですので」

「なら送って行ってやる」

私の目を見ず、ずんずんと屋敷を離れながらいう不死川さん。

「それはとてもありがたいのですけど」

用事はいいのですか?と聞きたかった私の声を不死川さんはさえぎった。

「ほらァ、とっと歩けェ!」

振り返って叫ぶ不死川さんに続くように私も歩き出した。

「杏寿郎さま、千寿郎さま。また!お元気で」

「またな、名前!」

そんな二人の様子をみて煉獄はつぶやいた。

「よもや!よもやだな!!」

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先を歩く不死川さんに遅れないように追いかける。
押し車ごと、炎柱さまの家に置いてきたので、帰りは荷物がなくて楽だ。
久しぶりに会った不死川さんはずんずん歩いていくものだから、歩いていては追いつけない。

「不死川さん!久しぶりですね。元気でしたか?」

小走りで追いかけながら後ろ姿に話かけてみる。

「あァ、元気だった」

お前にいわれなくてもなァ、と足を止めて不死川さんが振り返った。
少し固い表情をしてる。
でもその目はいつも薬園で3人で楽しかった時のものだった。
彼の、優しい目が私をとらえた。

「・・また傷が増えましたね」

「名前にわかるのかァ?」

よく見てるなァとクツクツ笑う。
あ、私の好きな不死川さんの表情だ。
心臓がどきりと鳴った。

「・・・・・名前は煉獄と仲、いいのかァ?」

「仲がいいというか、杏寿郎さまはただの芋仲間ですよ」

私が作った芋を気に入ってくれて毎年、芋ができるときに届けにいっていると話した。

「ふーん・・・」

じっとりした目で見つめられる。
え。さっきといい、今といい何が言いたいの。
不思議そうな顔で不死川さんをみつめ返す。

「・・・実弥」

「え?」

「俺の名前は実弥ってンだよ」

「え?馬鹿にしてます?知ってますよ、しなずが―」

青筋立てた顔で不死川さんが近づいてきた。
やはり怒った顔でぐっと両肩をつかまれた。

「実弥」

「さ、実弥・・さん」

「ん」

何かに納得したのか、実弥さんは私の頭にポンと手を乗せた。
そしてくるりと振り返えるとまた先を歩き出した。

いいんだろうか。風柱様をこんな風に気軽に呼んでしまって。
私なんかが、名前で呼んでしまって。
私の心がぽかぽか温かいは気のせいだろうか。
先に歩く実弥さんが耳まで赤いのも、きっと。


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