溶け落ちる恋の相対性理論 01



ここ、中高一貫のきめつ学園は、偏差値も高く地域でも一目置かれる学校だ。
この学校で私は高校の物理を受け持っている。
といっても、元々この学校の物理の先生が体調不良で半年程お休みすることになり、その臨時職員として呼ばれたのだ。
半年という短い期間だったけど生徒も先生も皆優しく、とても有意義に過ごせた。
残念ながら任期が終わり、学校を去ることが告げられた。
皆、一様に私との別れを惜しんでくれた。
寂しくなるなと感傷的になっていたそんな折、先生方が私の為にお別れ会という名の飲み会を開いてくれるという。
もちろん二つ返事で参加した私は、その飲み方で不死川先生とゆっくり会話をした。


不死川先生は実は私の中で前々から気になる存在だった。
時折聞く生徒からの話では、とにかく怖い、恐ろしい、凶暴なんて言葉しか耳にしなかった。
確かに彼は強面で、顔には大きな傷があり、鋭い三白眼に初めて顔を合わせた時は、少し怯んでしまったのが本音だ。
だけど、良く見れば整ったその外見、たまに見せるあどけない笑顔に見事ハートを撃ち抜かれた女子生徒も多いらしく、陰ながらファンクラブなるものもあるらしい。
いつも近寄り難いと思っていたため、毎日顔を合わせていたが、ほぼ挨拶程度の会話しか交わしたことがなかった。
でもその外見からはわからない、時々生徒に見せる優しさに自然と胸がときめいていた。
だからといって、半年だけのただの臨時職員に何かできることなんてなく、時間だけがすぎて行った。


そんな中、最後に私のお別れ会と称して開かれた飲み会で、不死川先生は急に私の隣に座ってきた。
お酒を飲んでいた事もあってか、いつもより饒舌な先生は新鮮で普段見せない崩れた笑顔に心臓が早くなる。
私もお酒の勢いと、これが不死川先生と仲良くする最後の機会だと思い、いつもより積極的に話しかけた。

気がつけば、手を引かれ2人で一次会を抜け出して、私の家のベッドにもつれ込んでいた。
ベッドに押し倒されて酔いでぼぅっとする頭で、不死川先生からの熱いキスを受け止めながら、まぁ、これから会うこともないだろうし、一夜の関係で気持ちを断ち切るのでもいいかと意識遠くで考えていた。

正直、身体の関係はとても良かった。

今、思い出しても夢のような一夜だった。

まるでパズルのピースにはまったかのように今までに感じたことのない刺激に心も身体も溶けていく。
頭の中が甘く満たされて、その日のことは本当に素敵だった、ということ事しか記憶がない。

朝起きたらお互い裸で、狭いシングルのベッドで抱き合っていて、驚きのあまり弾けたように起きたのを覚えている。

やってしまった、と血の気が引いたことも。

私が動いたことでつられて起きた不死川先生と目があって、私はいろんな意味での死を覚悟した。
でも不死川先生の行動は私の思いとは相反するもので、彼はゆっくり体を起こすと、笑って私の手を取った。

「俺と付き合ってくれませんか?」

それが私と実弥くんの馴れ初めだった。



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