09:落ちた硝子のその色は



宇髄が実弥を見つけたのは偶然だった。

久々に長期任務を終え、嫁たちに土産でも買って帰ろうと街を訪ねていた時である。
道の片隅に見知った銀髪の頭がだらしくなく座り込んでいるのを見つけた。
体調が悪いのかと近づいてみれば、酒のにおいを感じて立ち止まる。
普段、こういった姿を見たことがないためその様子が妙に気になった。

「お前・・大丈夫かぁ?」

声をかければ、気怠そうな顔が上がった。
焦点の合わない目が一瞬宇髄をとらえ、また俯いてしまった。

「・・・ほっとけェ」

力なくぼそりとこぼすように告げる声に、宇髄はため息をついた。

「心配してる同僚にそれはねぇんじゃないの」

そういって肩を貸そうと手を出せば払いのけられた。
さすがに苛立って強引に肩の下に手を入れ、実弥を無理やり立たせる。

「俺様が送って行ってやるから、何があったか話せ」

「・・・」

だらんと力なく垂れた銀髪の頭から、ぽつりぽつりと言葉少なに語り出す。
話しの中で、名前が結婚するらしいこと、それを聞いて無理やり襲ってしまったらしいこと、などを宇髄は察した。

『これ・・結構面倒な事に首突っ込んでるんじゃないの、俺』

半分寝てしまった様な実弥を抱え、実弥の屋敷に向かいながら宇髄は天を仰いだ。


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「実弥様!」

声をかけられ顔を上げれば、屋敷の前に名前の姿があった。
二人の姿を見つけ慌てた様子で駆け寄ってくる。

「あれ?名前ちゃん?」

不思議そうな顔で宇髄が見つめるが、名前は宇髄に半分担がれているような実弥の事が心配そうで顔を覗き込んでいる。

「大丈夫。ただ飲み過ぎただけだよ。具合が悪いわけじゃない」

そう伝えれば名前は胸を撫で下ろした。

「ところで、名前ちゃん。結婚するって聞いたけど・・・?」

なんでまだ屋敷にいるの?と疑問を投げなければ、名前も不思議そうな顔をした。

「誰からそんな話を?」

「こいつ」

と、だらしなく肩に体重をかける実弥を目で見た。

「確かに実弥様には結婚した方が良いか聞きました。けど、それは私が未婚であることで、あらぬ噂を立てられ実弥様に迷惑がかかると思ったからです」

なるほど、と宇髄は思う。
名前の事だ。自分が実弥にどんな風に思われているかなんて微塵もわかっていないんだろうなと内心呟いた。
お互いに思っているはずなのに、なんとももどかしい2人に宇髄は心の中で1人ごちる。

「・・あと、結婚の申し出は確かにありました」

「えっ!?」

誰が、そんなことと、何故か宇髄は一人焦った。
名前が本当に結婚するとなれば、実弥のその後を想像するのが恐ろしかった。

「でも、結婚しても、実弥様に仕えたいと。一生を共にと誓っているのは実弥様だけだと言いましたら、何故か向こうから断られました」

「ぶっは」

結婚を申し出た相手もさぞかし呆気に取られた事だろう。
結婚を、という相手から他の男に、一生を誓うと惚気にも近いことを言われるなんて。
ある意味、1番酷な応対だ。思わず宇髄は、全く悪気のないキミカの表情に吹き出していた。

「そっかそっか。とりあえず、名前ちゃんがここにいるなら安心だ」

「実弥様、大丈夫でしょうか」

自身の事より、実弥の事を気にする名前に目を細めつつ、宇髄は実弥を担ぐ様に屋敷の中に上がった。

「とりあえず、俺が寝室まで連れて行こう」

「ありがとうございます」

深々と頭を下げる名前を見つめて、早く2人の思いが絡む様に宇髄は思いを馳せた。


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