19:騒々しい宿命の生業





名前と煉獄はまだ隊士を目指していた時に少しだけ一緒に任務をしたことがある。
その時の煉獄の刀捌きに感銘を受け、名前は一時期、煉獄を「師匠」と慕い稽古をつけてもらっていた。
今思えばかなり自分勝手なと思うが、当時は強くなることが1番の目標でそのためにはなんだってする覚悟だった。そんな名前の事を嫌がることもなく、煉獄はよく稽古を見てくれていた。
彼程の人だから名前に才能がないのはわかっていたと思う。
が、そんなことは一度だっておくびにも出さなかった。
いつも笑顔で、時に厳しく、師匠の稽古は続いた。
大変じゃなかったといえば、嘘になるがとても身になる時間だった。


しばらくして周りとも比べて才能がないことがわかった時、名前は悲しみと悔しさ、煉獄にそんな自分の稽古に付き合わせていた恥ずかしさで合わせる顔がなかった。
それから長い時間、煉獄とは会っていなかった。
いえば、名前が意図的に煉獄を避けていたからだ。

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名前の姿を見ると、むう!と唸り羽織りを脱いで名前に寄越した。

「その格好は刺激が強いな」

そう言われて名前はあらためて自身の姿をみる。
浴衣は破れ、身体にはほぼ何も纏ってない状態に慌てて煉獄のくれた羽織りで隠した。


持ち歩いている簡易的な救急道具で、出来る範囲の処置していく。
たくさんのすり傷や切り傷があるが、一番の怪我は横腹に受けた大きな痣だ。
幸い骨は折れていなさそうだけど、痛みがひどく動けない。
煉獄が傷が痛むだろうとくれた痛み止めを口に運んだ。
動けないまま、傍にあった木に体重を預けるようにだらりと座りこむ。

「・・私だって、よくわかりましたね」

足の傷を手当してくれている煉獄に言えば、ああ!もちろん!と彼は声を張り上げた。

「目が変わってないからな!」

「目?ですか?」

半分は見えなくなってしまったこの目。
そういえば昔、煉獄に名前の眼光はとても気合が入っていていいな!と褒められた事を思い出した。
あの日は嬉しくって、つい稽古に励みすぎ、次の日動けなくなったっけ。
少し懐かしい思い出を引き出していたところで、ずいと煉獄が顔を近づけてくる。

「そうだ!その目は昔から変わっていない!」

「・・そう、ですか」

自分ではよくわからないが、煉獄には分かる何かがあるのかもしれない。

あ!と名前は声を上げる。

「そういれば女の子を見ませんでしたか?6〜7歳くらいの」

「あぁ、ここにくる前に会ったぞ!その子が向こうで名前が鬼に襲われてる事を教えてくれた」

大丈夫、その子は近くの民家に避難させた、との言葉を聞いてほっと胸を撫で下ろした。
よかった、無事だった。あの子は助かったんだ。
ふと頭に手が置かれ、名前は顔を上げた。

「無事で何より。よく頑張ったな!」

煉獄に暖かい眼差しでそう言われ、初めて名前は今生きてることを実感した。
トクトクと動いている心臓の音が確かに聞こえる。
先ほどまで震える手で鬼を目の前にしていた事実を思い出し、じわりと視界が歪み涙が溢れる。
涙は止まらず、たまらず手で必死に拭った。
次第にこぼれそうになる嗚咽をこらえるのに必死だった。

そんな様子の名前が落ち着くまで頭を優しく撫で続けた。



しばらくて落ち着いた名前を見ると煉獄が顔を上げた。

「ところで、名前は結婚したのか!?」

何故急にそんな質問。
疑問に思いながら名前は答える。

「していません」

「恋人はいるのか!?」

「いません」

「好きな人はいるのか!?」

「・・い、いませんっ!」

浮かんできた実弥の顔をかき消す様に勢いよく返事をする。
煉獄の顔をみると、そうか!とこちらも勢いよく返事をして、ふわりと名前を横抱きに抱えた。

「なら、うちの屋敷に来ても問題ないだろう!」

蝶屋敷より近いからな!と続ける煉獄を見上げる。
ああ、きちんとうかがいを立てていたのか。
きっちりとした彼らしいと名前は思う。
そして、煉獄は柱になっていた事実を今更ながら思い出し慌てた。

「いえ!そんな柱様の家にお世話になるなんて!大丈夫です、なんとかなりますから!」

「む、なら俺は名前が傷つく前に助けられなかったことを後悔せねばならぬが」

せめて怪我の手当てだけでもきちんとさせてくれ!そう言われて名前は口をつぐんだ。

正直、身体中が痛くて、今の自分が風屋敷に帰ったところで役に立たなないのは隠の時の経験からわかっていた。
このまま風柱の屋敷に戻っても、動く事もままならない。穀潰しだなと俯く。

「・・・よろしくお願いします」

そう小さく呟けば、煉獄はうむ!と頷いて走り出した。

小さく揺れる体と煉獄の腕の中の暖かさ。
痛み止めが効いてきて、疲れもあり気づけば名前は眠ってしまっていた。

「・・・本当に無事でよかった・・」

目を閉じてしまった名前の顔を見ながら、その細い体を抱きしめ煉獄が小さく呟いた。



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