恐れていた事が起きる時はいつも、嫌な胸騒ぎがする。
未来を知る術はないけれど、少しでも落ち着くように長く名前を抱き締めた。

柔らかい肌の感触はまだこの腕の中に残っているのに、私の身体は動かない。
マズイと思った時にはもう、最後の1人と相討ちになっていた。
遠くで倒れるそいつが放った銃弾は急所に突き刺さって、鮮血は止まる事を知らない。



「名前…」



今頃きっと眠っているんだろう。広いベッドの上で、私を待ちながら。
太陽が昇っても私が帰らないのなんて初めてだから、きっと心配を掛けてしまう。1人で目覚める朝は、どんなに不安だろう。
他に頼る人なんて居ない名前のこれからと、守り通せない自分の情けなさを思うと、傷口なんかより心が痛くて。


潮時、なんだろうと思った。
今まで数え切れないくらいの人を殺めてきた罪と、大切な人を愛してしまった罰。
この命がどうなろうと仕方のない事だ。だけど、名前を1人にしてしまう事だけが怖い。

行く当てのない蝶の羽休めだと思っていた。その内にどんどん愛し合ってしまって、離れられなくなった。
大したものは何もあげられなかったのに、それでも隣に居てくれた温もりが幸せだった。


オンニからの着信を知らせるスマホを、何とか擡げた手で耳に当てる。



「ビョリ?」


「…オンニ、ごめん…後の事、頼むよ…」


「ビョリ?ちょっと…」



力が入らない。瞼が重たい。

名前、どうか泣かないで。ちゃんと君の傍に居るから。



「……名前…」





ただひたすらに、君を想う。





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