アンナに連れられてやってきたのは応接間だった。城内の多分に漏れず豪奢なその部屋には兄である第二王子セドルオの姿もあり、レムルオは目を瞬かせる。

セドルオは成人していることもあり王子としての公務は多く、それを除いたとしてもどうやら出歩いてなどいるようでともに過ごすことはほとんどない。時折見かけはしても遠目にということが多くこうして相対するのはもうどれほどぶりだろうか。長兄が留学で不在の今、身近に会える唯一の肉親であるというのに。

「めずらしい」
「――レム様」

セドルオに気を取られるレムルオをアンナが窘める。

「久しいね、レムルオ。積もる話もあるけど、こちら」

手のひらで示されたのは、彼の隣。椅子から優雅な仕草で立ち上がるのは、華やかなドレスの見知らぬ少女。改めて室内を眺めれば、彼女の他そばに従者らしき若い男もいれば、いつもより警護の数も心なしか多い。

「お隣コルッカの王女、ミリーヌ様だ」

鮮やかな花の色をした美しいドレス。王女自身もまた可憐で目を惹く容姿をしている。アンナと同じような年頃だろうか。ドレスを摘み上げ美しく一礼してみせる。

「お初にお目にかかります。コルッカ王の次女ミリーヌと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
「レムルオ、お前の婚約者としてお招きした。失礼のないようにな」
「え、婚約者っ!?」

さらりと言われたことにぎょっとする。初耳だ。
王族として生まれたのだからいつかはそんな話もあるかもしれないとはぼんやり考えたこともあるが、そういった気配は特に感じられなかったので成人の儀式を迎えてからになるかと思っていたのに。

「先日決まったばかりだからな。ミリーヌ様もお前の姿絵ひとつ見ずにお越しくださったそうだ」

戸惑って視線を向ければ、ミリーヌは微笑んだもののそこには微かに苦みが含まれているようにも見える。

「おかしなことではないだろう。俺などは赤ん坊のアンナと婚約させられていたのだぞ?」
「その頃にはあなたも幼かったはずですけど」
「そんなわけで、ご滞在の間ご不便のないようして差し上げろよ」

セドルオとアンナの様子から、これは既に完全なる決定事項なのだと知る。当たり前か、婚約者はもう目の前に現れている、国境を越えてはるばるとやって来ているのだ。

「ミリーヌ様、不肖の弟ではありますがどうぞよろしくお願いいたします」
「こちらこそ不束者ですけれど」

当事者のはずが自分をよそに進む話。続いていた毎日が音を立てて崩れていく気がした。現実に置いていかれるようで、レムルオは呆気にとられ口を開閉するも言葉にならない。彼らを見つめ困惑するばかりだった。





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