「コルッカの王女」

ふむ、と頷いて一人微かに笑う。

「それはそれは、奴もついに動くつもりですか。なんと愚かしい」

薄暗い部屋の中、いくつかの灯火に照らされ浮かび上がるのは黒の衣を身に纏った人物の姿。一見するとまだ年若い青少年のようで、しかしながら雰囲気には老成したものがあり、また衣服と対比するかのような肌は青白く少女のようにも見える。

「セイ様」

呼ばれたその人物はゆったりと顔を向ける。

「どうしました、占術師殿」

そこには細身の少女。すらりとした四肢はすでに大人であると示しているのに、まだあどけなさの残ると見えるのはなぜなのか。
セイとは対照的に白く透けたレースとベールに覆われた少女、隠れた眼差しは凪いだ水面のように静かだ。彼女は首を振る。

「……いいえ」

ゆるりと揺れるのはベールとともに長く下ろされた髪。仄明かりを受けて澄んだ煌めきを放つ。

「王女にはご挨拶に参らねばなりませんね」

薄らと笑みを口元に忍ばせたセイは独り言つ。

「慣れない他国で心労も積もるというもの。よい眠りを得られるよう簡単なまじないでもかけて差し上げたいものです」








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