毎日毎日繰り返すのは坦々とした日常。感情は捨てるしかなかったから辛いとは思わない。
それでも、血を浴びるほどに心は冷えていく、ぬくもりを忘れていく。

降りかかる赤は生ぬるいというのに冷たくて、心が死んでいくのを日々感じて。
他人が生こうが死のうが関係ない。すでに割り切って生きている。生きるためには仕方のないことだ。

――生きていたいわけでもないのにおかしなことだが。

重い音がして、またいつもの扉が開く。「来い」呼び声に応えて当然として椅子から腰を上げた。
与えられている小さな部屋を出て、廊下を進んで、薄暗い中を進んで、辿り着く。扉。

「主様に御用というのはどなたです?」

広い、だが明かりのほとんどない、設置すらされていないそこはがらんどうな研究室だ。
毎日毎日、主人に用があると訪れる者、どこからか連れて来られる者、様々な者と引き合わされる。
その者らの相手をするのが役目、仕事であったから、これからすることを考えようと今では特段思うこともない。

「使いの者に用はないと言った」

はずだった。

「その主とやらを出せ」
「――……アンタは」
「お前の主人を出せ!!」

金の髪に青い瞳、知っているよりも伸びた髪、深い眼差し。
覚えているより低い声、凍てるような態度、空気、刺さるほどの強い強い、感情。

「……主様は別室においでだ。何用だ、用件を伺おう」

動揺は表に出ただろうか。それすらわからないほどの動揺。

勧められたであろう椅子に座ることもなくそこに立っているのはかつての友。幼き日をともに駆けた――間違えるはずもない。
向こうは気付いていないのだろうか、それとも覚えていないのだろうか。様子が変わることもなく睨み合う。

「約束していた秘薬を貰い受けに来た」
「約束の秘薬?」
「そうだ。お前の主人がうちの村に立ち寄った際、非常事態だからとオレたちは貴重な薬を分けた。その時帰ったら代わりに送ると言った薬だ」
「そんな約束――」
「薬は確かに送られてきた。だが飲んだ者は突然の悪化だ。真相を確かめ本当の秘薬を貰いたい」

嘘だ。

そんな約束は嘘だ。そもそも主人は屋敷を出ていない。
それは……主人が実験動物とする人間をおびき寄せるために各地にばらまいた餌だ。

「聞いているのかッ!」

目の前で叫ぶ青年は腰に提げていた得物を手に机も何もかもを蹴り飛ばす勢いで駆けてくる。

選択肢は一つ。――彼を。

「もし約束が果たされなかったら、主様を殺すと?」
「そんなことしたいわけじゃない。だが早くしないと、急がないと――ッ」

過ぎったのは過去。二人で遊んだ草っぱら。楽しそうな笑顔。見たことのない少女。

「――いつだって彼女には勝てないんだな」

病弱な少女。彼の大切な少女。

「え、」

飛んだのは赤。

血潮。飛沫。

知っていた。知っていた。彼が大きな何かを起こすのなら誰かのためであると。
そんな彼と友達であることが昔は誇らしかったし、自分もその『誰か』に含まれていることが嬉しかった。

だが、……だけどダメなのだ。

「お、まえ――」
「ゴメン」

飛んだのは赤。
そして金の、髪。頭。

涙は出なかった。大丈夫、すでに心は死んでいる。

「よくやった、今日はこれで……おい!?」

大丈夫、すでに死んでいる。もうずっと以前から。全てはあの頃に置いてきた。
見も知らぬ少女、危険な状態であるのなら彼女もすぐに彼のもとへ行くだろう。
それならば今度は。

「三人で会おう」

飛んだのは赤。

降りかかる赤は生ぬるく、そして












熱かった。





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