二色
そして、ココアを飲みながらほっとしていると
目の前の彼は少し考えるように顎に手を乗せたあと私に尋ねてきた。
「君はなぜ、あの時間にあの場所にいたんだ?俺の推測からして、突然そこに現れたかのようにも思えたんだが」
言いたいことはたぶん、彼の方が現場に先にいてその時は暗かったのもあるけれど、気配は感じなかったはずなのにいつの間にか私がいたことに不審に思っているのだろう。
私にだってよく分からない。それに、異世界に飛ばされるのは今回が初めてではなかったのだ。年数でいる時もあれば、数日数分と気まぐれに起こる現象に途中から考えるのをやめた。
私があまりにも何も反応しないのを不思議に思ったのか気づいた時には、大きな手が目の前にあった。
『ごめんなさい。ちょっと考え事をしてて……。変なことを聞くんですが、私がその問いに答えたら、貴方も私の質問に答えてくれますか?』
「……ふむ、返答次第では答えてやらなくもない。」
すっ…、と一瞬で分からなかったけれど、顔をじっと見る癖のある私にはよく見えた。私を探るような目。ここまでトントン拍子で進んでいて気づかなかったけれど、初対面でかつ、辺鄙なところから落ちてきた私をテリトリーに入れている時点で逃がさないとでも言うような雰囲気を出している。
逃げるつもりは毛頭ないけれど、やっぱり彼のその姿を見ると普通の私には怖い対象に思えてくる。
でも、ここがあのかの有名な作品の過去なのだとしたら、こんな所で私の命を奪おうなどしないだろう。根拠はないけど。
私が答えようと姿勢を正して少し息を吐くと 彼もまた、姿勢を正して私を真っ直ぐな目で見つめてきた。
『分かりました。お話します。けれど、今から話すことは他言無用。頭がおかしいと思われるかもしれない。でも、私が合図するまで黙って聞いてて欲しいんです。よろしいでしょうか?』
「ああ、いいだろう。して、合図はどうする?」
『私が姿勢を崩したら、にしましょう。ココアをまた一口飲んだら質問をかけてもいいです。ただ、私もその分質問しますけど』
「わかった。それまで大人しくしていよう」
ああ、この時間が何よりも嫌いだ。
この自問自答な時が、いつまで経っても慣れない。
偶然は必然 二色 完