三色



『まず、私がここへ飛ばされるまでの経緯をお教えします。ここへ来るまではーー』



そう、ここへ来るまでは 何度目になるか分からない、私が元いた場所でいつ飛ばされるのか不安に思いながら戦争も何も無い平和な土地で暮らしていた。


いつも飛ばされる間際、何かしらのアクションが起こるのだが、今回はそれがないまま彼の元へ落ちてきた。


いつもなら、鈴の音が聞こえたり、目を刺すほどの痛みの伴う光を見たり、猫が歩いていたり、自称神様がいたり、変な声が聞こえたり、と変なことが起こるのが当たり前だった。当たり前だと思っていたからこそ、気が緩んでいたのだと思う。


今日も何も無かったと欠伸を零して就寝した矢先の出来事だった。


そもそも戦争もない平凡な地で産まれていながら、なぜこんな転々と世界を巡っているかというと代々受け継がれている この身体のせいなのだ。身体というか体質というか…難しいことはよく分からない。



初めてその事を親から伝えられた時は、、今思い出すだけでも虫唾が走る。ただ、分かっていることは 子を産めば、その子にも受け継がれること。受け継がれても自分がその体質を分け与えるだけで消えないこと。その世界に行くということは何かしら自分に関わりがあるということ。行きたい世界は決められないこと。その世界に戦いがあれば、その術を身につけられること。また、他の世界に行った時も使えること。


ここまでは、説明されても何となくわかった。ただ、最後に説明されたことは人間の私からすれば、身近なようで異質なものだった。


それはーーー


『殺されかけたり、死にそうになっても死ねないこと。見かけは人間でも不死身であること』


しかも、相手から下されても自分で行っても生きているのだ。こんなのを知ったあかつきには、周りからは【化け物】と呼ばれてきた。


ただでさえ、時空を行き来できるのだ。しかも子供にも影響が出る。それに加え、過去に同じ種族同士で結婚しようものなら弾き返されるという事。その弾き返されるというのがどういうものかは書物にも詳細はなかった。


おばあちゃんやお母さんに言われていたのは、男性には時を渡れることはできないけれど、外部から過去や未来を歪ませることが出来るということ。逆に女性には時を渡れることは出来るけれど歪ませることが出来ないということ。


ただ、歪ませることが出来ないけれど正すことは出来るということ。それがどういう意味なのかは、その場にいた2人に尋ねてもお互い目を合わせて儚げに笑うだけだった。


それが良いのか悪いのか、未だに怖くて私は実行できていない。


歪ませることが出来ないのに正すとはどういう事なのか。


馬鹿な私には理解が到底追いつかなかったのだ。


でも、飛べる世界は決まって元いる場所で多少知識があれば渡れるというのが強みだった。だから、


『だから、私はこれから起こることが多少なりとも視えています。貴方と出会ったその日から。』


少し休憩しましょうか、と声をかけ温くなったココアに口をつけた。それを合図に彼もソファに浅く腰をかけると ふう、と一息ついた。それもつかの間、


「それは、どう反応すればいいか分からんのだが。君は特殊体質ということだな。長々と話しているのを聞いていて疑問に思ったことを聞いてもいいだろうか」

『良いですけど、あまり驚かれないんですね。こんな非現実的な話、普通は信じられない。とばっさり切るものでしょう?』

「俺も最初はそう思ったさ。だが、こう見えて見る目は鍛えているつもりだ。君は嘘は言っていない。それに、でまかせを言ったところで君にメリットはない。…だろう?」

『相変わらず、優しいんですね』

「君とは初対面のはずだが。そういえば、知識があるんだったな。」

『ええ。ごめんなさい。でも全ては知らないの。でも、協力できることがあれば何でもするわ。だから……』

「俺はそんなことは望んでいない、それとそれは、軽い口で言うものでは無い」


何でもする、は 便利な言葉ではあるが同時に逃げ場をなくすことにも繋がる。くれぐれもこの場で使うのはやめておいた方が身のためだ。


ーーそう言うと彼は、新しいココアを入れてやろう、質問はそれからだ。と席を立ってキッチンへと向かっていった。



戻ってきた彼からなんと聞き返されるのか、私はその質問に欲しい答えがあげられるのか。


話し終えてほっとしていたというのにまた少しじくじくと息が詰まるような思いをするのだった。




偶然は必然 三色 完