月のゆりかご - mope


とぼとぼ、そんな効果音が付きそうな足取りで綱吉は通学路を歩く。
夢見は悪くおまけに寝坊しリボーンに叩き起こされて。

(……雫ちゃんが、帰って来てるのは知ってる。)

深いため息を吐き出しながら綱吉は心の中で呟く。
月光館学園での終業式が終わって3日後に彼女は並盛に帰って来た。
その数ヶ月前に電話をした時に、雫は確か少し落ち着いてから帰ってくると言った。
けれど、まるで逃げて帰ってきたかの様な雰囲気に物怖じして今まで会いに行く事が出来ずにいて。

それに悶々としていたら、リボーンを筆頭に様々な出来事が起こった。
雫の存在が霞んでしまう程に。
けれどそんな時に、昨日母親が雫の話題を振ってきた。

「…………だから、あんな夢。」
「あんな夢がどうしたの?」
「え?!」

後ろから聞こえてきた声に、綱吉は肩を強張らせた。
思わず振り向き……その大きな目を更に見開く。

「雫ちゃん、その髪……!!」
「おはよ。髪はバッサリ切っちゃった。」
「そ、そっか。」
「……もう、1年ぶりに会ったからって余所余所しいなぁ。」
「…………。」
「綱吉?」

月光館学院とは真逆、並中よりも色素の薄い所謂パステルイエローのブレザー。
白のシャツ、薄茶のリボン。淡い灰色のプリーツスカート。
並高の女子生徒の制服を身に纏った彼女を見れば見る程、最後に会った雫と比較してしまう。

腰まで長かった髪は肩に付かない場所まで切っていて。
どこか他人を拒絶する様な雰囲気は、消えた訳ではないが柔らかくなっていた。

(……嘘っぽく、なくなってる。違和感はあるけど1年前に比べたら……。)

「綱吉?どうしたの、こんどは膨れっ面。」
「別に。」
「別にって顔じゃないでしょそれ。」

速足で綱吉の隣に駆け寄った雫は軽く人差し指でその頬に触れる。
心配そうに、呆れたように。

少なくとも雫はその顔に一つの感情しか表現できなかった筈だ。
けれどそれがどうだろう。
どちらの意味も捉えられるような表情を浮かべている彼女は、一体誰なのだろうか。

「そういえば、昨日奈々さんが店に来たよ。聞いてる?」
「夕飯のタイミングで。……一人でお店やってるの?」
「学校あるから限定的にね。あ、今日の放課後遊びに来てもいいよ。」
「い、いいよ!最近とも……だち……?と帰ってるし!!」
「………?  そっか、綱吉も中学生上がったし友達出来たんだね。大事にするんだよ。」

次は寂しそうな顔だ。
ころころと、表情を変える雫の顔を見て、綱吉も顔を少し俯かせる。

良いことじゃないか、それに気づいたのは彼女が巌戸台に旅立った日だとしても。
無理矢理貼り付けたような表情を浮かべてたあの頃よりも、今の方が。
……たとえそれを、幼馴染の関係性である自分ではなく、巌戸台で出会った友人が変えたとしても。

あぁ、でも。言い様の無いこの感情は一体何なのだろうか。










あれから曲がり角で別れを告げ、学校に来た綱吉は今日は散々だと心の中でぼやく。
授業中も、休憩中も幼馴染の事が頭を過って何も手に付かない。
それは憧れであり、意中である笹川京子に話しかけられても気づかない程に。

(あ〜〜〜〜!最悪だよ!!)

夕焼けに染まる教室の中で、綱吉は頭を抱えて机にうなだれる。
会いたかったのは事実だ。けれどどうしてここまで胸がもやもやするのだろう?
まとまらない頭の中で答えの出ない考えを持て余している。
そんな彼の前に二つの影が伸びてきた。

「10代目〜!!」
「ご、獄寺君!?」

唐突に両手で机を勢いよく叩かれ、はじかれるように椅子ごと仰け反る。
そのまま足を滑らせー……ドッターン!と大きな音を出しながら倒れ込んだ。
慌てた様に駆け寄ってきた獄寺に大丈夫と言いながら綱吉は頭を摩る。

「いてて……!」
「ツナ、大丈夫か?」
「あ、山本も?」

困った様に笑いながら近付いて来た山本はよっと声を出しながら綱吉の腕を掴み立ち上がらせる。
立ち上がった彼は、ん?と首を傾ぐ。獄寺も山本も、何か言いたそうな顔をしていた。

「いや、ツナ朝からなんか上の空だったからよ。何かあったのかなって。」
「10代目!何か気になる奴がいるなら俺がぶっ飛ばしますよ!!誰ですか?!」
「ちょ、と、とりあえず獄寺君ストップストップー!そんなんじゃないから!!」

語気を荒目に詰め寄ってくる獄寺を両腕で×マークを作りながら止める。

「た、ただ……1年ぶりに帰ってきた幼馴染の雰囲気が変わっててさ……。なんか違和感で……もやっと……してただけで……。」
「幼馴染……?……あー!月岡さんな!」
「え?!山本雫ちゃん知ってるの?」
「雫さんじゃなくて、雫さんの爺ちゃんをな。親父の寿司食いに来てたんだ。その時連れられてきてたから良く覚えてるぜ。」
「そ、そっか……。」
「なるほどなー。だから爺ちゃん旅行に出たのか。店は閉めんぞ!が口癖だったからどうしたんだって思ってたからよ。」

祝に寿司でも持ってかないとな!
と、明るく笑う山本に綱吉は乾いた笑いしか出なかった。
すると話に付いていけていない獄寺がむっとした顔で山本を押しのける。

「で、10代目はそいつになんか不信感持ってるってことっすよね?」
「どうしてそうなんのー?!」
「?そうじゃないんっすか、いっちょシメてやろうかと……。」
「雫ちゃん女の子だからね?!絶対駄目だよ!?」

利き腕の袖を捲りながらそう言う獄寺に、綱吉は再度慌てながら止める。
綱吉の必至の制止に、獄寺は渋々「10代目がそう仰るなら……」と口を尖らせながら下がる。

「じゃぁよ、ツナ!もっかい会いに行ってみればいいんじゃねーか?」
「え?!」
「偶には良い事言うじゃねーか野球バカ!行きましょう、10代目!」
「ちょっ」
「大丈夫ですよ、10代目に喧嘩売ったら俺が買うんで!」
「そういう問題じゃないしー?!」

綱吉の叫びも聞きいられず、話は山本と獄寺の間で進んでいく。
山本の父親と月岡の祖父の間柄は良好だった為か、山本は喫茶店【月の木漏れ日】を知っている。
それなら話が早いと獄寺がそれに乗り、二人とも鞄を持つ。

「ツナー、行くぞー。」
「10代目ー!此方にどうぞ!」
「え、ちょ……!あー!待って!!先に雫ちゃんに連絡入れるから!!」



1年ぶりの再会

(って、あれー?!繋がらないー?!)
(10代目からの電話を着信拒否だと?!)
(偶々電源切れてるだけじゃねーか?)
(……すぐ留守番電話に入ったんだけど……。……嫌われてる……?)
(あり得ません!大丈夫ですよ!!)
(獄寺君のその根拠のない自信は何ー?!)



2017/12/30



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