フイルム
彼、周助さんとお付き合いを始めて改めて気がついたことがある。
彼は本当にその場に合わせてカメラも、レンズも使い分けていることに。
カメラについて私は詳しくないけれど、少しずつ遠景はこれ、近景はこれ、人物はこれ…というようにその日携えているカメラや取り出したレンズで彼の目的が判別つくようになったと思う。手早くレンズを変えて彼はファインダーを覗き込みそして楽しげにシャッターを切る。撮りたい風景を見つけた瞬間の彼の嬉しそうな顔はとても素敵で、何度見ても見惚れてしまう。
ただ一つ、不思議に思うことがある。
それは私を撮るとき決まって、フイルムのカメラを使うことだ。
ほら、今日もそうだ。
彼がソフトクリームを食べる私に向けたカメラは、年代物のカメラ。使い込まれたことがわかるロゴの掠れや、細かな傷の多さは明らかに最近のものではないし、何よりも、私を収めシャッターを切った後必ず何かを回すような動作をする。
調べたのだけれど、これは巻き上げというらしい。フイルムカメラにある特徴。
「食べてるとこなんて恥ずかしいから撮らないでくださいよ」
「そうかな。幸せそうに目を輝かせて、とてもかわいいよ」
そう言って、ね、一口貰っていいかな。と言い私の食べ口から器用に舌で一口さらっていく。
「うん、美味しい」
そう言って彼はまた私をファインダーに収めようと、カメラを持ち上げ顔の前に運ぶ。
「…ところで周助さん。」
シャッターが切られ、彼はシャッターボタン近くのハンドルを動かす。
「何かな?」
「私を撮るときいつも、フイルムカメラじゃないですか。」
ハンドルを動かす彼の手が止まる。
「それってどうしてかなって思って。」
「どうしてかな…?」
そう彼は私の言葉を反芻した。
「だって、フイルムカメラって、私が知ってる写真って状態にするのに手間がかかるってて調べたんです。デジタルの方がすぐ確認できるし、加工だって難なくできます。その方が周助さんにとって……」
楽なんじゃないかなって思って。という言葉は口に出せなかった。私に向けられる彼の微笑みが普段と変わってどこか危なげな雰囲気を纏っていたから。けれど、たじろぐ隙もなく彼はいつも通りの微笑を浮かべる。
「そう、調べたんだ。偉いね。君の言う通り確かに手間はかかるよ。」
そう言って彼は優しく掌の上のカメラをそっと撫でる。
「でもその分その写真に愛着が湧くからね」
「なるほど…」
確かに手間暇をかけたものには愛着が湧くという気持ちは理解できる。凝り性な彼だ。彼らしい考えと呼べるだろう。
「だから沢山思い出も愛着もある写真を撮らせてね。」
そう言って彼はまたシャッターを切った。
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