白昼夢


もう一本*


防波堤に座った時雨の足が揺れている。
爪先から生まれた風は水面を掠めて、小さな漣を起こしては、大きな波に攫われる。
手にしたアイスキャンデーは溶け始めていて、指先から腕を伝って地面へシミを作っている。

「暑いね」

そう言って被っていた麦わら帽子の縁を掴んで目深にする。
その姿がなんだか愛らしい。

「海入ったらきっと涼しいよね。」
「流石にクラゲが沸いてる中に入るような勇気はないなぁ。」

そう返すと、確かにと彼女は呟いて、手元の柔らかいアイスキャンデーを一口かじる。柔らかすぎて上手く口に含められなかったのか、口の端から一筋溶け出したそれを俺が舐めとってあげようと身を屈めるより先に、彼女は指で掬い取って舐めてしまった。
少し惜しいことをした。

「精市がこの一本当てたのに、なんで自分で食べなかったの?」

彼女はふと思い出したかのように尋ねた。

「さっき俺だけが当てて、すごく落胆していた時雨がなんだかかわいそうで。」
「なんだか申し訳ない…」
「いいんだ。そんな時雨も可愛かったわけだし。」
「でも、」
「申し訳ないって?」

そう彼女の言葉を先取ると、彼女は控えめに頷いた。

「じゃあ、それ当てたらその一本を俺に頂戴?」
「もちろん!」

彼女は意気込んで、一口かじる。
さっきは思い切り齧り付いて、頭を酷く痛めていたからか控えめに一口一口食べている。小さい口をめいっぱい目一杯あけて頬張る彼女もイイが、控え目なのもまた違った良さがあるなと、少し変態じみたことを考えてしまう。それもこれも彼女が可愛いのが悪いのだ。

「このアイス、当たらなかったらどうしよう。」
「どうするもこうするも、当たらなかったらそれで終わりだよ。」
「確かにそうだった」

ごめんね、そう彼女は呟いてさらに齧る。少し見えたアイスの棒に印字は何もなく、彼女はあからさまに落胆した。

「流石に二回連続はむりだったね……」
「仕方ないよ。そんなに何度も当てれるわけないよ。」
「そうだけど…じゃあ、はい」
「え?」

彼女はアイスキャンデーをこちらへ向けた。差し出されるとは思ってもみなかったから、驚いてそれを見つめることしかできない。
陽に晒されているそれはみるみる溶ける速度を上げて、大きな水滴となってアスファルトに小さな水溜りを作り出す。

「せめてものお詫び。半分食べてお詫びも何もないけどさ。」
「時雨」
「ほら、はやく、溶けちゃう溶けちゃう!!」
「じゃあ遠慮なく。」

そう急かされ、差し出されたアイスキャンデーに齧り付く。
溶けかけのそれは、口から少しこぼれて彼女の指に伝った。
そのままそれを舐めとる。こそばゆいのか彼女は身を縮こめ、腕を引こうとするより先にしっかりと掴みそれを阻む。ただでさえ甘いのに、彼女の肌に落ちたそれはさらに甘く感じる。
そのまま伝い落ちてゆく溶けたアイスキャンデーを追いかけて腕を舐め上げると、手から力の抜けた彼女の手が棒を離した。

「あっ」

声が重なる。
アイスキャンデーはくるりと空中で器用に回って、足元のアスファルトに落ちて棒に辛うじて残っていた部分が潰れ飛び散る。
潰れたアイスキャンデーから覗いた棒には小さく、「あたり」。
そう印字されていた。

「もう一本だね。」

そう彼女は満面の笑みで俺を見つめた。


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