見覚え
「よう、カカシ」
「……アスマ」
中忍試験予選会場前
今から順に予選が行われる。
「お前なんか良いことあったか?」
「……何よいきなり」
「いや、いつもと違う気がしてよ」
「…………」
カカシは「良いこと」と問われて一番最初に浮かんだ顔を思い出してみる。
柔らかく笑う●●●の顔だ。
愛しい存在が帰ってきた、家に帰れば会える。
そしてきっと「おかえり」と言ってくれるだろう。
忍びたるもの感情を表に出すべからず……なのに、自然と目元と頬が緩んでいく。
「……やっぱな、なんかあったろ」
「…まあね」
「●●●だろ?」
カカシは黙ってアスマを見た。
アスマはニヤリと笑っている。
「……なんにせよ、仲直りしたんだな」
「喧嘩…じゃあないよ」
「じゃあ……一方的なやつか?」
いつもならアスマとこんなに無駄話はしないのに…。
「●●●のやつ…お前の話題になると毎度おかしい気がしてよ。昨日の宴会での●●●もだが」
帰省のときなんかしたのかよ、と聞かれる。
カカシと●●●が、3年前の帰省の時も会っていると思い込んでいるアスマ。
まずそこから違うから。
「3年前は会ってないよ……」
アスマは驚いた顔をする。
そして新しいタバコに火を付けた。
アスマの話によると●●●はかなりマメに木の葉に帰って来ているそうだ。
九尾襲来時を除けば1〜3年毎に帰省していた。
その事実を知って、カカシはかつての担任の話を思い出した。
「ちょくちょく帰ってきてお前の様子見に来ると思うぞ」
今回カカシが●●●に最初に会ったのは慰霊碑だった。
岩隠れの里から帰ってきたその日に慰霊碑で俺の名前の有無を確認していたのだろうか…。
もしかして木の葉に帰ってくる度にそうして…?
●●●にとてつもなく会いたくなった。
拒絶されるのが怖くて会いに行けなかった自分を殴りたい。
●●●はこんなにも俺を気にかけてくれてたのに。
「何やってんだろーな、俺は…」
そう呟くカカシを横目にアスマは口から煙を吐き出した。
カカシを見送った●●●は自分の借りたアパートに来ていた。
今回●●●が木の葉に帰省したのは、調べ上げた全てを書籍にまとめるため。
だが、やることは山ほどあった。
まず、はじめに使い込んだ薬箱の肩ひもを修理に出す。
重い薬箱を持ち上げると全く足元が見えない。
いつかはナルトくんが運んでくれたっけ…
そのナルトくんはいま中忍試験中だ。
●●●は薬箱を抱え家を出る。
アパートを出たところで腕に限界が来て薬箱をどすんと置いた。
「やっぱり重い……」
●●●がふーっと息を吐き出す。
「……大丈夫ですか」
後ろから声をかけられ●●●が振り向くと、どこかで見たことがあるような顔が居た。
その男性は黒地に赤抜きの雲のマントを着て
真っ黒な瞳に目頭から頬にかけてスッと筋が入っている。
連れはおらず、1人のようだ。
●●●は見たことのあるような顔立ちにしばし見入ってしまった。
男性も●●●を見ていたが、薬箱に目線をそらす。
「あ…」
その男性は●●●の薬箱を軽々と持ち上げて、また●●●を見た。
「どちらへ」
「そ、そ、そこの…道具屋まで……」
●●●は突然の出来事に思考が追いつかないし、言葉がどもる。
どこかで会った気がする、その記憶を探していた。
薬箱を運ぶ男性に聞いてみれば早いけれど、なんとなく話しかけにくい雰囲気を纏っている。
そんなことを思う●●●を放って男性は薬箱を持ったまま道具屋の方へさっさと歩いて行く。
●●●はその背中を追いかけ、勇気を出して静かに話しかける。
「あの…どこかで会ったことありますか?」
「………………いや……」
男性は●●●を見ることなく答える。
自分の思い違いか、と●●●は謝った。
2人で無言で歩いていると、道具屋が見えてきた。
●●●は男性の斜め後ろをついて行く。
男性は道案内せずとも道具屋の場所を知っているようだ。
この辺に住んでいるのだろうか。
しばらく歩くと男性が口を開いた。
「貴女には…世話になった記憶がある」
「えっ、私に…?」
いつだろう?やっぱりどこかで会ったような気がしたのは間違いでなかった。
●●●は男性を見上げた。
「名前聞いてもいいですか?」
「……………」
●●●は答えを待ったが男性は答えてくれない。
また無言で2人は歩く。
道具屋に到着し男性が薬箱をどすん、と降ろした。
「貴女の医療忍術…よく考えて使った方がいい」
「…えっ?」
男性は●●●の真横を通り過ぎて店を出て行く。
その際に●●●の耳元で何かを呟いた。
「 」
「……え……あっ」
●●●はお礼を言おうと振り返るが、そこにもう男性の姿は無かった。
「……………」
●●●が男性の去った方を見ていると店の中から店主が出てきた。
「いらっしゃい、あらら紐が見事に切れちゃって〜。もっと丈夫なの付けておきますわ」
早速薬箱の紐の修理に取り掛かる店主をよそに●●●は変わらず男性の去った方向を見つめる。
先程男性に耳元で囁かれた言葉を確認する。
「………イタチ?」
男性は●●●の耳元で確かにそう言ったのだ。
●●●から見えなくなった頃
屋根の上を走るイタチが無数のカラスになって消えた。
「イタチさん……どうです?木の葉の方は…」
「……そろそろ行く」
そこには同じ黒地に赤抜き雲のマントを着た2人がいた。
●●●が会った黒い瞳のイタチではなく
真っ赤な瞳のイタチだった。