仲直り










「じゃ、3日後に取りに来て」

「はい、お願いします」


●●●は道具屋をあとにする。

アパートへの帰り道にイタチと名乗る男性に言われた言葉を思い出す。


『貴女の医療忍術、よく考えて使った方がいい』


あれは、どういう意味なのだろう…。
●●●は、う〜んと考えながらアパートに帰宅した。



帰省した日に、ガイとリーに運んでもらった日用品が袋詰めされたまま部屋中に散らかっている。


ここ数日、これから木の葉に在住する為の手続きや、火影様への報告、宴会などで忙しかったので整理する暇がなかったのだ。

散らかって見るに耐えない部屋を見渡す。
結構買い込んでしまったのでかなりの量である。


今日は修行の成果をまとめるより先に片付けをすることにしよう。

やる気を出す為に熱いコーヒーをグイッと飲んで目を覚ます。
身体がポカポカしてくる。

いつもの服ではなく、ラフなシャツとパンツに着替えた。
長い髪の毛をひとつにまとめ、髪が落ちてこないように額にバンダナをギュッと結ぶ。

パンっと手を叩いた。

「よし、やろ!」



まず初めに、アパート備え付けの棚に買い溜めした日用品を詰め込む。
結構広い収納スペースがあって助かった。


料理で使う道具もかなりの量だ。
包丁、まな板、ボウル、ザル、鍋、フライパン、箸……順に片付けていく。


可愛いなと衝動買いした服も畳んで棚にに入れる。

小物の整理が終わると、次は家具を順に段ボールから出す。

机、ベッド、小さいソファ

机とベッドは組み立て式だった。
重い木の板とネジが沢山入っていた
説明書を睨みながら組み立てていくが、気が遠くなりそうだ…。
こんな時こそ、誰かに手伝って欲しい。



「重っ…痛っ!」

組み立てている途中で手が滑って腕を少し切ってしまった。
少量の血が流れる。


「あーあ…」

やっちゃった。
●●●は応急処置として包帯を巻いた。


何度か付けるネジを間違えたり、取り付ける順番を間違えたりしてうんうん唸りながら組み立てていった。
ガイやカカシだったら、パパッと出来るんだろうなあ…。
●●●はもう2度と組み立て式の家具は買わないと誓った。



やっとの思いで組み立てた家具を部屋に配置して、ベッドに座ってみる。

ギッと音がした。硬い。
やはり実家の柔らかいベッドには勝てないなあ。

全てを片付けて出た段ボールやゴミをまとめて掃除機をかける。

新品の掃除機は沢山ゴミを吸ってくれる気がする。



日が暮れて、全ての片付けが終わった。
散らかっていた部屋も綺麗に片付いて満足だ。


「やっと終わったあー…」


●●●は勢いよく硬いベッドに倒れ込んだ。
ちょっと休憩しよう…

さっきついた腕の傷が今になってじんじん痛む。
●●●は包帯の上から傷を押さえる。


「自分の傷も治せればいいんだけどなあ」


●●●のお腹がぐるぐると鳴る。
お昼も抜きに片付けをしていたので、とてつもなくお腹が空いた。

よろよろと立ち上がって服を着替える。
筋肉を使ったからかなんだか腕が重い…。

片付けで疲れた体で料理をする気にはなれなかったので、1人で夕方の繁華街にくり出した。

繁華街に入ると、食べ物のいい匂いがする。
ますます●●●のお腹が減ってきた。


夕方の繁華街はとても賑やかだ。
家族連れやカップルか夫婦か…みんな楽しそうに行き来している。

掃除で疲れきっていた●●●の足取りも軽くなってくる。


「何食べよっかな」



●●●がキョロキョロよそ見しながら歩いていると、ドンと何かにぶつかってしまった。


「わっ、すみま」

「どこ行ってたの?」

「せん……」


目の前には両手をズボンのポケットに突っ込んで立つ、不機嫌そうなカカシの姿。
カカシの目がギッと●●●を睨む。

な、なんか怒ってる?


「そんな痛かった?ごめん…」

「そうじゃないでしょ」

「え?」


カカシは●●●の手をグッと掴んで繁華街を歩き出した。

「えっ」

カカシの行動に驚いて、腕を引かれるがままついていくことしかできない●●●。

カカシの歩幅が大きいせいか、歩くスピードが早いせいか●●●は小走りぎみになる。
握られている手が少し痛い。


「ね、ねぇ…どうしたの、カカシ」

「…………」


カカシは●●●の言葉を虫してずんずん進んでいく。
手を離してくれる気配はまるでない。

どうしたの?今日…何か約束でもしてたっけ…?
それとも私…なんかやらかした?

●●●は朝カカシを見送ってからの自分の行動を思い出してみる。
約束した記憶もやらかした記憶もない。


●●●は手が痛いのを我慢して黙って引っ張られて行くと、カカシは、自分と●●●の生家の前で止まった。

そこでカカシはようやく掴んでいた●●●の手を離す。
カカシは●●●をじっと見つめた。


「…書置きも何もないし…また急にいなくなったかと思ったじゃない…」


また…?
●●●は数十年前、砂の里へ行くとき自分がカカシに何も言わずに移動商人たちと木の葉を出たのを思い出した。
約束とかやらかした訳ではなくて、
カカシは私がいなくなったかと思って…?


「……それで探してくれたの?」

「お前はホント何をし出すかわからないからね」


カカシはやれやれとため息をついた。

●●●はすこしムッとしたけど、
思い返せば、砂へ行くとの報告もいきなりだったし、里を出たのもいきなりだった。

次はいきなり何をするのかカカシに信用されてないのは…まあ仕方ない。

カカシはさっきの不機嫌な顔とは反対にニッコリ笑った。


「ごはん、俺が作ったから…食べよ」


●●●の生家の窓から明かりが溢れる。
カカシの家の電気は付いていない。


「あ、ありがとう」


『先に家に帰った方が夕食を作る』カカシは
昔と同じルールをまだ覚えていてくれたのか。

●●●は幼い頃の2人に戻れたみたいで嬉しくなって頬が緩んだ。

カカシの作ってくれたごはんをまた私が食べてもいいのかな。

いまこうして普通に向き合っているけれど、よく考えたらあの夜のことをカカシにきちんと謝っていない気がする。

きちんとしっかり謝らなければ。


「行こ」


カカシに続いて●●●も家に歩き出す。
自分の実家に入るのに、なんだかお客さんになったかのよう。緊張する。
ドキドキしながら玄関へ入って靴を脱ぐ。



家の中に入ると美味しそうな料理が並べられていた。

「わあ、おいしそう!」


昼ご飯抜きで部屋を片付けていた●●●には普通の料理でもキラキラ輝いて見えた。
お腹の虫が今にも鳴りそうだ。

カカシと●●●は対面に座り食卓を眺める。
目の前にお互いが座るこの光景も久しぶりだ。
なんだか、照れくさい。



「いただきます」


2人は手を合わせてから箸を取った。

カカシが作ってくれた料理は、魚の塩焼きとお味噌汁とごはん。
魚の身がホクホクで美味しい!
ごはんがすすむ。
味噌汁も懐かしいカカシの味だ。


「おいしい」

「そりゃよかった」


カカシは、自分の作った料理を美味しそうにぱくぱく食べる●●●を見て微笑んだ。
中忍試験観戦後で疲れていたから外で食べようとも思ったが、作ってよかった。


●●●は美味しいカカシの料理に箸が止まらない。
忍としても一流で、その上料理までできるとはカカシは神様に気に入られているなあ…
そう思ってカカシをチラリと見た。


●●●は久しぶりに口布を下げたカカシをまじまじと見た。
昨日の飲み屋では薄暗くてよく見えなかったが、今日ははっきり見える。

●●●に見られていることに気付いたカカシは、箸を止める。


「……どうかした?」

「カカシ…目のとこのキズ…結構深いね」

カカシの左目には、あと少しで口にまで達しそうなほどの傷痕。刃傷だろうか。

「ああ、これね…」

カカシは指で傷をなぞる。
この傷は●●●が砂へ行ってすぐ負った傷だ。
この傷のせいで俺は『自分の』左目を失った。



「食べてるときにごめん、なんか職業病っていうか…すぐキズとか痣とか見つけちゃうの」

「いいことじゃない」

カカシはまた食事をはじめる。

●●●は一足先に食べ終えて箸を置く。
お腹いっぱい大満足だ。

「ごちそうさま」


少ししてカカシも食事を終え、2人でお茶を飲む。
やはり食後はコーヒーよりお茶だな。

お腹いっぱいで少し苦しい●●●は、椅子の背に深くもたれかかる。
カカシはテーブルに肘をついて顎を乗せる。


「カカシ1人のときでも料理してたの?」

「んーしてないね」

「料理美味しかった!ありがとう。またつくってね」

「今度は●●●が俺につくって」


やっぱりお茶の時間は会話が弾む。
幼い頃に戻ったみたいな会話。楽しい。

昔はこのまま、2人で両親のベッドで朝まで寝て………
今は流石にそれは無理がある。出来ない。


●●●は、ハッとした。
楽しい会話に揉まれて忘れるところだった。


「あの、カカシ…あの夜はごめんね…カカシに酷いこと言って……」

●●●がカカシを見ると、カカシは目を伏せる。

「……悪いのは俺だよ」

「…私、カカシに砂に行くこと前日まで何も話さなかったし…カカシが怒るのもわかるから」

「…んー、それだけじゃないけど…たしかにあれはショックだったね」

「すみません…」

「じゃ…おあいこってことで」

「カカシも私の…触ったもんね?」

●●●はカカシに触られた自分の胸に手を置いた。

「ちょっと…やめてよ」

カカシは頬を赤く染めて視線を流す。

そんなカカシを見て●●●はふふっと笑う。
カカシも笑う●●●を見てニッコリ笑った。


数十年という時を経て、
あの夜に出来た2人の溝が埋まっていくようだ。



「カカシ、腕かして」

「なんで?」


カカシは素直に片腕を机の上に差し出す。
●●●はカカシはの服の袖を捲り上げる。
この状況、前もあったな


「私、こうする為に修行の旅に出たんだから」

「へえ?その割には会いにきてくれなかったじゃない」

「う……」

「ま、俺もだけどね……」

「え?どゆこと?」

「いーや、こっちの話」


●●●は青白い光を手に纏ってカカシの腕の古傷を癒していく。

血が出ている傷より治りかけている古傷の方が簡単に治る。

あの夜の何も出来ない自分は、キズに口づけするしかできなかったけど、今は治せる力を手に入れた。

修行中についたキズから、任務で負った傷まで順に光を当てる。
カカシの腕がどんどん傷痕1つない綺麗になっていく。

カカシはその様子を黙って見ていたが、いつか●●●を庇って負った手裏剣の傷跡に光を当てようとするとカカシがもう一方の手で傷を覆った。


「この傷は治さないでいいよ」

「え…?」

「この傷は残しておきたいから」

この傷は消しちゃいけない
俺が●●●を守るって決めた傷だし

治せるようになったのに、と少し不服そうな●●●はもう片方の腕の古傷も跡形もなく治していった。

カカシは捲られた腕の袖を元に戻す。


「俺は口づけの方がよかったな」


その一言で次は背中を治していた●●●の手の青白い光がぷつんと消えた。

●●●の顔がどんどん赤くなっていく。


「な、んのこと?」

「ほら、あの夜さー腕の傷痕に…してくれたじゃない」


私…あの時…目つむっててねって言ったはずなのに!


「み、み、見てたの!?」

「見てた」

さらっと笑顔で答えるカカシとは逆に、
●●●の顔は真っ赤だ。


「もう帰る」


「ごめんって!●●●んちはここでしょ。」


「そうだけど…もう外暗いし本当そろそろ帰らないと」



「はあ?どこに帰る気?また昔みたいに一緒に寝ようよ」


私にはアパートがある。
あそこに帰らなきゃ今日頑張って掃除した意味がないではないか。

それに、いくら昔みたいな関係に戻れたとしても…

「やっぱり、その.お互い大人になったし、一緒に寝たりっていうのは…」


「何を今さら言ってんの。昨日は普通に寝たでしょ」


「昨日は酔ってたし…迷惑も…かけちゃったし」


シラフでなんて、余計に眠れないよ…


なかなか『うん』と言わない●●●に
カカシは1つため息をついた。



「中忍試験の我愛羅って子の話、聞きたくないの?」


●●●はぱっと顔を上げてカカシを見た
どこか嬉しそうな●●●の顔にカカシはムッとした


「我愛羅くん、中忍試験受けてるんだ!」

「んーまあね」


今夜は長い夜になりそうだ。