傾城の美女





木の葉の里から遠く離れた水の孤島。
小さい島ながら、独立国家として栄えている。
他国との貿易は必要最低限しか行わない、謎に満ちた国のひとつ。

孤島に似合わず豊富な資源と清らかな水。

その水を生むのは、その国の姫様の特殊なチカラだ。

特別な日に、特別な歌を。

その声は大気を震わせ、風を味方に雨を運ぶ。


中々お目にかかれない水の国の姫を
見た者皆んながこう口にする。

『傾城の美女』と。

そしてその言い例えは木ノ葉の暗部によって本物の出来事となる。








「許さぬ!この恨み忘れぬぞ」


「姫さま!お逃げください」

「ギャアァ!」


なぜこんな事になってしまったの?
見慣れた壁や床、お気に入りの家具たちが
炎に包まれる。
よく知る声たちの悲鳴が部屋中に響いていた。

「姫さま!!あぐっ!」

私を呼ぶ家臣が悲鳴をあげて床に倒れ込む。

背には忍が使う無数の星手裏剣が刺さっている。


私は倒れた家臣に駆け寄った。
浅く刺さっているだけなのに家臣の体はみるみるうちに冷たくなっていく。

「姫さま!傷口に触らないで下さい!致死性の毒です!ギャアァ!」


目の前で家臣達が次々と倒れていく。
この光景はなに?なにがどうなっているの?
誰?……誰がこのような事を?


「●●●姫!どこだ!」

炎の中から私を呼ぶ知らない声。
私は咄嗟に柱の影に身を隠し、様子を伺う。

燃え盛る炎の中からその声の主が現れた。
嘴のついた奇妙な面を付けている。
その手には真新しい血がたっぷりついていた。
体格からして男性のようだ。

部屋の中をぐるりと見渡し、面の男は隣の部屋へ行った。

火の手が回る。熱い…。
●●●も、もうここに隠れてはいられない。

城の外へと走る。
その途中の廊下には無残に殺された見知った顔たち。皆んな●●●姫を守ろうとして散っていった者たちだ。

逃げる為にその屍の上を跨ぐ。

「ごめんなさい…ごめんなさい」


何もしてあげられない。
ここへ置いて行かねばならぬことをどうか許して。

「●●●姫さま…」
「…ああ…そんな…凛太!」

●●●姫は家臣の屍の中に、今にも力つきそうな幼なじみの姿を見つけ駆け寄った。その身体からは絶え間なく血が流れ、かろうじて、生きているような感じだ。

「今すぐ手当を…」
「●●●姫さま…お逃げください…じきにここにも火の手が……」
「生きている凛太を置いてはいけません!…一緒に外へ!」
「いえ……俺はここまでです…」
「そんなっ…」
「最後に●●●姫…様に会えて…良かった…で……」

凛太の顔は微笑んだ顔のまま●●●の目の前で生き絶えた。

「……凛太…!!」

●●●は凛太の血だらけの体を力強く抱きしめた。

「ごめんなさい…」

●●●は火の手が回る中、凛太を置いて外へと急いだ。





同時刻
炎が燃え盛るひとつの部屋に面をつけた男が2人。


「いないようですね」
「あぁ…」
「しかし、無残なやり方ですね…心が痛みますよ」
「……あとは●●●姫の救出だけだな」
「この炎じゃあ生きてるかわかりませんよ…」
「●●●姫は大丈夫だ…炎では死なない」
「どういう事です?」
「……ま、話は後だ。さっさと行かないと俺たちが焼け死ぬ」


面の男たちは走り出した。





「はあ、はあ」


●●●姫はやっとの思いで外に出た。
身につけていた服が所々焦げている。
すこし煙を吸い過ぎたようだ。
胸が苦しい。


●●●姫の手の中には血塗られた額当てがあった。

●●●姫の国を襲い、両親や家臣、幼なじみの凛太の命を奪った忍の里…木ノ葉隠れの里の額当てだ。

●●●の目の前で生き絶えた幼なじみ…凛太が握りしめていたものだ。




他国とは一切の衝突もなかった我が国がなぜ。

私たちが、何をしたというの。

許さぬ、許さぬぞ、木の葉の忍。


額当てを握りしめて●●●姫は木の葉への復讐を誓う。





●●●は燃え盛る自分の生まれ育った城を見つめる。

父上、母上…城のみんな、凛太…。

●●●姫は、母上の言葉を思い出した。
『特別な日に歌うのよ。我ら一族に伝わりし歌』

●●●姫は息を大きく吸い込んで歌う。
皆んなへの、鎮魂歌。


●●●姫が歌を歌い出すと大気が揺れ、
空から大粒の雨が降り注いだ。

城の火がみるみるうちに小さくなって、消えていく。

近くの澄んだ川は瞬く間に色の悪い濁流になった。






「このいきなりの豪雨……●●●姫かな」
「雨と姫と…何か関係が?」
「簡単に言うとこの国の血継限界みたいなもんだよ」
「ここの姫さんがですか?」
「ん…雨がやんだら行こうか」


この国は、他国との貿易をまるでしない謎に満ちた孤島の国。
何が起こるかわからない。
今回の任務は相当高くつくよ。

任務遂行書の巻物を読み返す。

この国の事で分かっている事は…
水を思いのままに操ると言われる血継限界。その使用方法は未だ不明。
この血継限界は水遁、または組み合わせに水遁が入っている術を全て水に帰す…すなわち無効化できる。多少の火にも強い。
逆に雷遁などの術にはモロく致命的。

そしてもう1つは、この国の姫は『傾城の美女』と言われるほど美しいといわれること。


「傾城ねえ……」
「城を傾ける…国を滅ぼす程の美女、ですね」
「出来ればあまり関わりたくない美女だな」

雨はすこしも治らない。
まるでこの国が、空が泣いているようだ。



「いました!●●●姫です!」
「保護しろ!傷付けるな」


さて、これでこの任務も終わりだ。
早く帰ってシャワーを浴びたい。


「…お、お助けください…ひいぃ」

見事な着物を着た1人の女が頭を下げる。

「大丈夫ですよ、貴女を傷つけはしません」
「ぅ、ううぅ」

姫は目に涙を浮かべ顔を上げた。

……これが…傾城の美女……?
言い過ぎではないか…。
どこにでもいる普通の女に見える…。



「●●●姫!こちらへ!」

仲間の暗部が姫と船の方へ向かう。
姫はこのまま木の葉で保護する事になっているので、姫を乗せそのまま船を出し木の葉へ向かった。


これで、この任務は終わる。