夢の方*






カカシは夢を見ていた。

朦朧とする意識の中で
見覚えのある深い色の髪が目の前をかすめる。




●●●…だ



夢とはいえ、久し振りに会えた愛しい女の姿を抱きしめようと体を動かそうとするが指先すらも動かない。

夢の中では体の自由は効かないらしい。


●●●…


名前を呼んでいるのに、唇が動かない。




頭と頬を優しく撫でられる感覚。

懐かしい感じ…すごく、落ち着く…




「まっててカカシ、今治すから…」




懐かしい声がはっきり耳に届いた。


●●●…●●●……


夢で会いに来てくれたのか。

あの夜はごめん。俺の事許してくれる?


俺の声はまだ●●●には届かなかった。






●●●が夢に現れてからどんどん身体の痛みが消えていく。
身体が軽くなってきて、もう動かせそうだ。






意識が明確になってきた。

夢から覚めていく感じはするが、●●●の姿は消えずにそのままだ。

さっきは動かなかった指先が動く。

ああ、やっと、●●●を抱きしめられる。

触っても、嫌がらないかな。









「カカシー!」


カーンと頭に響いた甲高い声。
おかげではっきりと意識を取り戻せた。


「きゃー!いま、誰かいたよ!」


見覚えのある女たちがきゃあきゃあと何か言っている。
確か忍者学校の同級生だったやつらだ。


カカシはベッドから半身を起こし
自分の身体を確認する。


怪我をした箇所に
真っ白な包帯が綺麗に巻かれていた。


そして、身体がかなり軽い。
怪我をする前よりも軽い気がする。


カカシはきゃあきゃあとしている女子たちに訊ねた。



「あのさ……ここに誰かいた?」



カカシに話しかけられた女子たちは嬉しそうだ。


「うん!いたいた!なんか逃げるように急いで出てっちゃったから顔は見えなかったけど」

「女だったよね、髪長かったもん」


「ねえ!ひょっとして泥棒ぉ?」


「えー!カカシ何も取られてない?」




女子たちが喋り始めるといっきに騒がしくなる。


その声を聞いて、病院の看護師が来た。


「あんたたち、ここは病院だよ。静かにしなさい」


女子たちはさっきより静かになったが、クスクスと小声でまだ何か話している。



「あら、はたけさん…意識が戻ったんだね。よかったよかった」


「……ありがとうございます」


「包帯を変え…あらら?もう綺麗に変わってるね。誰か来たのかな?」



看護師はベッドにかかっているチェック表を確認する。
チェックはされていないようだ。


「う〜ん、誰かチェックし忘れたかな。ちょっと怪我の様子を見せてね」



カカシはベッドに横になった。


看護師はカカシに巻かれた包帯を外しにかかる。


「これは変わった巻き方してるね。たしか、砂の国の方の巻き方だよ。看護師の誰かに砂出身がいたかな〜?」


砂の国……

砂の国と言われて浮かんだのは夢に出てきた●●●の顔。


看護師はくるくる包帯を外していく。


「あれっ、傷がない」


看護師の声に、カカシは首を持ち上げて自分の身体を見た。


意識を失う前に見た痛々しい傷が綺麗に治っている。

カカシはまた夢で見た●●●を思い出した。
そのときどんどん身体の痛みが消えていったことも。


看護師は驚いた顔のまま
先生呼んでくるね、と病室を出た。

それと同時に大人しくなっていた女子たちが喋り出した。


「カカシにね、お花持って来たの!!飾ってね!」


「……………ありがとう……」







「失礼するよ」

ノックと共に医者がカカシの病室に入ってきた。



女子たちはまたしぶしぶ黙る。



医者がカカシの怪我があった場所を診察する。


「……綺麗に治ってるねえ〜。医療忍術の跡があるね。誰が医療忍術使えるの?」



医者は女子たちを順に見る。

女子たちは「え?」と、全員かたまってしまった。


それを聞いてカカシは医師に訊ねる。



「…あの、先生…病院の方で医療班を手配してくれたんじゃ…?」

「いやあ、そうしたいところなんだけど…九尾襲来以降、医療忍者がかなり人手不足でね…君くらいの怪我には対応してくれないんだ……」


カカシの胸がどきりとする。


砂の国の包帯の巻き方と医療忍術…


まさか…?



「…あの」

「はい?」

「今日、ここへ面会に来た人っていますか?」

「受付の記録に残ってると思うけど……」

医者が看護師に確認を頼んだ。
看護師は病室を出る。


医者はカカシの身体の全ての包帯を外し診察する。


「こりゃ驚いたね。文句なし!すご腕の医療忍者さんだ」


先ほどの看護師が病室に入ってきた。


「はたけカカシさん、今日の面会はこの女の子たち以外に、1人女の子が来てますね」


……女の子?


「名前は…名前はわかりますか?」

「ええと……はたけ●●●さん?身内の方かしら?」

カカシは胸がドキっと鳴った。
身体が腹の底から煮えるように熱くなる。

夢でみた●●●は
夢でなくて、現実だったんだ。

現実であったなら身体に鞭を打ってでも抱きしめればよかった。

●●●は木の葉に帰って来てる…!

今すぐにでも探しに行きたい。

カカシは興奮が抑えきれない。
足がムズムズする。


でも何故、●●●は俺と同じ名字を名乗ったんだろう。


カカシは本当の夫婦になれたかのような嬉しさと高揚感でいっぱいになった。

はたけ●●●……か……悪くない。

緩む表情を見られたくなくて、手で目元を覆う。




「身内…名字が同じだからすんなり病室に入れたのね」

「身内の方が治してくれたのかね。かなり使える医療忍者だね。是非、病院の方からもお礼を言っていたと伝えてくれるかな」

医師はカカシの病室を出た。

「心配ないとは思うけど念のために明日までは入院して状態を確認させてくださいね」

そう言って看護師も病室を出る。

すると女子たちが待ってました!と言わんばかりにカカシのベッドを取り囲む。


「ねぇ、カカシ!話があるんだけど…」

「……なに」


カカシはひとつため息をついた。


「カカシ…退院したら!…私とデートしないっ?」

「……………」


カカシは黙り込んだ。

女子たちは全員熱い眼差しでカカシを見つめる。



カカシは傷があった箇所を指で撫でた。

砂の国の包帯の巻き方も、医療忍術も●●●が…。


●●●が治してくれたと思うとまた胸が熱くなる。


●●●、医者が褒めてたよ…
お前はすご腕だってさ。


「……俺も、まだまだ負けらんないね」

「えっ?」

「悪いけど……俺遊んでる暇ないや」

●●●に負けないくらい修行して

俺はお前を守れる男になる。



明日退院したら、1番に●●●を探しに行こう。