女子会
「●●●…なにかあったの?」
「え?」
紅は、待ち合わせ場所に先に来ていた●●●を見て驚いたんだ顔をする。
●●●は何のことだかさっぱり分からない。
「随分と汚れてるけど…」
「あ…まだ汚れてる?一応さっき払ったんだけどな」
●●●の髪と服には沢山の砂が付いていた。
●●●は服をパンパン叩いて砂を払う。
紅も手伝って●●●の死角部分の砂を払ってやる。
「ありがと紅。さっきまで公園で玉蹴りしてて…」
「●●●にそんな趣味があったのね」
「いや趣味っていうか……」
紅と喋りながら繁華街を歩く。
すっかり日の暮れた繁華街は夕食どきとあって、とても賑わっている。
赤提灯のお酒を出す店を見つけて、暖簾をくぐる。
カウンターとテーブル数席のほどよい広さの店は、間接照明で柔らかい雰囲気だ。
「いらっしゃい」
店員が4人掛けのテーブル席に案内してくれた。
座って温かいおしぼりをもらう。
「●●●、飲める?」
「飲めるけど…」
●●●は迷った。
紅と食事してそのまま砂へ帰る予定だから
飲んでしまっては…帰れなくなりそう。
「じゃあ飲みましょ、私明日休みなのよ」
「そうなんだ、じゃあ少しだけ」
●●●は後の事を考えると気が進まなかったが、紅が折角貴重な休日の前夜を自分との時間にしてくれたのだ。
それに、お酒が飲めるようになって初めての再会でもある。
少しくらい一緒に飲みたい。
それぞれ好きなお酒と料理を注文する。
お酒が運ばれてきて、2人で乾杯。
「●●●、いつまで里にいれるの?」
「明け方までには出ようかなあと」
「またそんな無茶苦茶な計画立てて大丈夫なの?」
なんとかなるよ、と●●●は梅酒を飲む。
●●●は梅酒を初めて飲んだ。
飲みやすくてぐいぐい飲める。
砂の里では友達もいないのでたまに飲むときは1人。
少しのお酒をゆっくり飲む感じだ。
特に酔うこともなかったので自分は酒に強いと思っていた。
紅はローペースではあるが空きっ腹にお酒が入ったこともあってほどよく酔いはじめた。
頬がほんのり赤くなっている。
「それにしても…●●●が下忍にならず砂へ行くとは驚いたわ」
紅の声色が色っぽくなってきた気がする。
酔ってるなあ。
●●●は初めて見る紅のほろ酔い姿に見入ってしまう。
●●●は、紅がこれ以上酔っ払う前に第三者にどうしても聞いてみたかった事を聞いてみた。
「あの…紅は…家族や友達に、大事な事を何も相談されずに……その……」
「そりゃ、怒れるわね」
紅は串焼きを頬張りながら答えた。
●●●は俯く。
最後まで言わずとも帰ってきた答えにカカシから何か聞いているのかな、と疑問にも思う。
俯いた●●●を見ても、紅は続ける。
「それに悲しいわあ…自分は頼りにされてない、蚊帳の外なんだなって……仲が良いほどキズもミゾも深くなるわよ……修復不可能だわ…」
「そ…そんな…」
しゅ…修復不可能…?
紅の言葉が岩のように重く●●●にのしかかる。
カカシと共に過ごした何年もの家族のような関係はあの一夜で簡単に崩れてしまうのか…。
紅はカカシの気持ちを代弁しているだけなのだろうけど、耳に届く言葉には容赦がない。
そうだ、私は自分のことしか考えていなかった。
カカシと同じ高みに行きたいと思ったのは自分なのに、カカシのそばを離れる寂しさがあって…。
カカシに引き止められたら自分の意思が揺らぎそうで言えなかった。
自分の意思がもっと強ければカカシにも話していたのかなと思うと、意思の弱さが結果的にカカシを傷つけたことになる。
いや、そもそも私がもっとカカシの気持ちを考えてあげられていたら…。
もんもんと1人で考え込む。
自分がひどく嫌になった。
木の葉に帰ってきてからなんだか考えさせられることが多い。
「カカシには会った?」
「いえ…会ったというか…一方的に」
「一方的に?…見つめていたの?」
「えっ…いや!見つめたわけじゃ…」
「いらっしゃい」
店員の声と同時に入り口から聞いたことのある声がした。
「あっ、結構空いてる!」
「やったー、飲も飲も!」
どこで聞いたっけなあ、と●●●が記憶を巡らせていると紅が口を開いた。
「あら…確か忍者学校の同級生…じゃなかったかしら」
「えっ」
●●●は入り口の方を振り向いて見た。
そこには3人の女。
その顔を見て●●●は思い出した。
●●●が長期間忍者学校を休んでいて、久し振りに登校してみると、なんで休んだ、ズル休みだ、などと罵ってきたグループだ。
一言で言えばすごく苦手な人たちである。
でも、なんだろ…
最近聞いた記憶がある声…な気がする。
「●●●?」
「あっ、ごめん、なんでもない」
なんでもない、と言いつつもその3人が気になってつい聞き耳をたててしまう。
3人はお酒を飲みながら大きな声で話しはじめる。
聞き耳を立てなくてもよさそうだ。
「ねー、カカシ意識戻ってよかったよねー」
「ホントホント!怪我も完治みたいだし」
「誰だっけー、治したの?」
ああ、カカシの病室の前で騒いでた声だ。
まさか自分の同級生だったとは。
●●●は3人の顔を見る前に窓を飛び出したので、聞いたのは声だけだった。
紅は3人を見て、思い出したように話し始める。
「あの子達、忍者辞めたみたいよ」
「…そ、そうなんだ」
「理由は分からないけど…それで解散になったチームが出たみたい」
3人はお酒を飲みながらはしゃいでいる。
忍をやめたなら今何してるんだろ。
「明日、カカシをもう一度デートに誘ってみるよ!」
「ええ?断られたじゃん」
女子の1人がふふふ、と意味深に笑う
「実は〜、カカシに忘却術かけてきた」
「えー?ってことは?」
「今日のこと全部忘れてるの!デート断ったことも、怪我が治ったことも!もう一回誘えばデートしてくれるんじゃないかなって」
「うわー、ヒドイ女!」
「カカシを振り向かせるためだもん!」
ものすごい内容の会話をものすごい大きな声で堂々と話す女子たち。
好きな男に振り向いてもらうためになんでもする精神は尊敬するが…。
ターゲットはカカシなのか…。
カカシに少し同情した。
それを聞いた紅は黙ってお酒を飲む。
「●●●、大丈夫よ。カカシがそんな術に簡単にかかるわけないわよ」
紅の頬は真っ赤だ。
かなり飲んだみたい。
「う…うん」
カカシもああいう元気一杯な女子が好きなのかなあ…。
女子たちは、酒が入って一層大きな声で騒ぎ立てる。
「場所変えましょ、●●●。もっと静かに飲みたいわ」
紅と●●●はお会計を済ませて外に出る。
外に出た瞬間、ビューッと強い風が吹き抜けた。
風圧で周りに居た人たちがフラついて、
空から羽ばたくようなバサバサという音が聞こえてくる。
紅と●●●の目の前に、白くて綺麗な見覚えのある鳥が降り立った
「ふーマン!?」
木の葉繁華街のど真ん中に、師の梟『ふーマン』が降り立った。
木の葉の門のところで消えてしまったはずなのに…。
繁華街に居た人たちは何だ何だ、とふーマンを囲む。
ふーマンは首をグリングリン動かして周りを見渡す。
「●●●、この鳥は…?」
紅も驚いたようで、静かにクナイを構えていた。
流石…酔っていても切り替えが早い。
「あっ、大丈夫!この子は…」
師が●●●の迎えにふーマンを寄越してくれたのだろうか。
ふーマンは●●●をジィと見つめ、背を低くした。
『乗れ』と言ってるようだ。
●●●は拳をギュッと握る。
「ごめん、紅…私行かなきゃ」
紅はクナイをしまう。
「んもう。次は朝まで付き合いなさいよ」
「うん!いってきます!」
ふーマンの背に乗ろうとした●●●は、ピタリと足を止める。
「忘れもの…」
そう言って●●●は目についた土産屋で『木の葉まんじゅう』を買った。
「誰へのお土産かしら…男?」
紅が覗き込む。
「…男っていえば男かな」
「●●●もやるわね」
ふふ、と赤い頬の紅が笑う。
●●●は紅に別れを告げてふーマンに乗って飛び立った。
師にいきなり行ってこいと言われて来たけれど…本当、木の葉に来てよかった。
死んでも後悔しない覚悟をするために来たのに
絶対死ねない、踏ん張ってみせる。
師だって、術式を使って今も生きてる。
私だって…!
「絶対、やりきってみせる」
●●●は真っ暗な空を砂へと向かって行った。
カカシ、またね。
今度は…起きてるカカシに会えるかなあ。