ダンゴムシとミミズ





大きさも広さも同じくらいの隣の家に同い年の女の子がいる事は小さい頃から知っていた。



覚えてないが初めて会ったのは物心つく前らしい。



カカシの記憶で1番古い●●●は庭で泥だらけになって遊ぶ姿。
目があった俺にニッコリ笑いかけてくれたことは今でも忘れない。


家が隣同士で親の職種が同じなのもあって、会わない日はないのではないかと思うほど頻繁に顔を合わせていた


ある日の夕方、いつものようにカカシが1人で父親の帰りを待っていると、隣の家の庭で遊ぶ少女が見えた

●●●だ

しゃがみ込んで庭にあるクローバーの葉をぷちぷち摘んでいる
摘んでは捨て摘んでは捨てを繰り返している

カカシは家を出て隣の家の庭を柵越しに眺める


「…なにしてんの?」


「あ、カカシくん、手伝って」



●●●はカカシを手招きする

カカシは柵を簡単に飛び越えて●●●のそばに降り立った


「四葉のクローバー探そ」


「なんでまた」


カカシは●●●の側でしゃがみこむ



「カカシくんにあげようと思って」


「…それ本人に手伝わせるってどうなの?」


あははと笑ってから
●●●は真剣な顔で四つ葉のクローバーを探しはじめる

そんな●●●を見てカカシもクローバーをひとつづつ見て探す






「カカシ、●●●ちゃん」


名前を呼ばれて二人は同時に声の方を振り向いて見た


「父さん」


家の前の道にカカシの父、はたけサクモがいた


「サクモさん任務お疲れさま」



「ああ、ありがとう●●●ちゃん。受付所でご両親を見かけたからもうすぐ帰ってくると思うよ」


「そうですか」


●●●はパッと笑顔を見せた

両親が帰ってくるのが楽しみで仕方ないようだ


「じゃあね」



カカシは●●●にそう言ってサクモの方へ歩き出した


「まって、カカシくん!」


●●●はカカシの前に回り込み、ニヤニヤしながら手に持っていたダンゴムシを見せる


「………………なに?」


「あれっ、驚かない!」


サクモは●●●の手の中を覗き込む


「●●●ちゃん、虫触れるの?」


「はい、ダンゴムシは触れます!」


四つ葉のクローバーが見つからなかったからだろうか

カカシくんにあげるね、と●●●はカカシの手にダンゴムシを転がす


「いや、いらないし」


「カカシ、貰っときなさい。転がるのが上手くなるよ」



「そんな特技いらないでしょ」



サクモと●●●は顔を見合わせて、あははと笑った

カカシは手の中のダンゴムシを転がす



「おや!はたけさん、こんばんは!お疲れさまです」


「あ、お疲れさまです」


●●●の両親が帰ってきた
父親の方は何やら大きな箱を抱えている



「おかえりなさい!」


●●●は両親に飛びついた
2人はしっかりとそれを受け止める


その様子を見てサクモはカカシの頭に手を置いた



「じゃ、カカシ帰ろうか」



「うん」



「あ、はたけさん、ご夕食これからでしょう?任務依頼主の方からおいしい魚を頂いたので一緒にどうです?」


●●●の父親が大きな箱を見せて、サクモとカカシを夕食に誘う


「えっ、いやいや、そんな……悪いです」




「遠慮なさらず!今から作るのも大変でしょう」



沢山頂いたから、と●●●の母親も誘ってくれた



夕食に特に何も用意していなかったはたけ家の2人は●●●の家で魚を頂くことにした



家のコンロではなく、●●●の家の庭に七輪を出してきて、魚を焼く
少しだけチャクラを練って火遁を使えば、簡単に炭に火がついた

七輪の側に簡単なテーブルと椅子を広げて、それぞれ座る

●●●が家に入って行って炊いておいた白米と味噌汁を温め、大人たちに配る


あとは魚が焼けるのを待つだけ


魚から油が落ちてジュウジュウ音がする

もくもくと香ばしい煙が上る

みんなのお腹の虫が鳴いた



「いい匂いだなあ」


「サクモさん、ビールでいいですか?」


「えっ!?…いえいえ、明日も任務が…」


サクモさんは断りきれず、●●●の父親と酒盛りをはじめた


「カカシくん、はい」


ちょうど魚が焼けたころに
●●●がカカシの分の白米と味噌汁のお膳を持ってきてくれた



「ありがと」


「おかわりしてね」


●●●は自分の分のお膳をカカシのとなりに置いて座る

「いただきます」

焼きたての魚をおかずに2人はもりもりとご飯を食べた

小振りな魚だが結構な量を貰ってきたようで
食べても食べてもなくならない。

●●●の父親とサクモは呑みながら魚をつつく。
あの任務にはこの道具が便利、とか
あそこの依頼主は気難しい、とか
2人にしか分からないような会話をしてる
とても楽しそうだ。

●●●の母親は次々と魚を焼いている。

「ねぇねぇ」

「なに?」

●●●は隣でご飯を食べるカカシを見た。

「カカシって呼んでもいい?」

「…なんで?」

魚をつつくカカシの箸が止まる。

「サクモさんの真似!」

●●●はまたパッと笑った。
父さんと●●●はとても仲が良い。

さっきのダンゴムシのときだって俺をからかって2人で笑ってたし。

父さんの真似をして何になるのか分からないがカカシはコクンと頷いてやった。

「じゃあ、今からカカシくんはカカシね」

「……はいはい」

なんだかこしょぐったい。
父さんに呼ばれてもなんの違和感もないのにな。

この気持ちがなんなのかカカシには分からなかった。



その日は魚をたらふく食べてそれぞれの家に戻った。

サクモは疲れと酔いと満腹ですぐに寝てしまった。

カカシはサクモの布団に潜り込む。
父さん…あったかい……


それからすぐにカカシも眠りについた。







その数日後、自宅の庭で父さんとクナイの手入れをしていたとき…

隣の家から出てきた●●●は、
赤地に鞠や牡丹、蝶などの模様が入った、それはそれは綺麗な着物を着ていた。

少し伸びた髪の毛には綺麗な髪飾りが付いている。

左手は父親、右手は母親と手を繋いでいる。
両親が大好きで、生きるのが楽しくて仕方ないというような、眩しい程の笑顔だった。


大好きな両親を独り占めして、普段見ることのない綺麗な着物に身を包む●●●。


カカシは初めて見る●●●の着物姿をじっと凝視していた。

カカシ、と呼ぶサクモの声もカカシには届かない。


「●●●ちゃん……かわいいね」

「…うん…………………………あっ…」



父親の問いに無意識に答えてしまった。

カカシの顔はみるみる真っ赤になっていく。
その顔を見てサクモはくくく、と笑う。

「サクモさん!カカシ!見て見て」

●●●が2人に気付いて笑顔で手を振る。

サクモはひらひらと手を振り返す。


「……父さん…余計なこと言わないでよ」


まだ顔が赤いままのカカシは口布をぐいっと上に引っ張る。


それから●●●とサクモとカカシと3人で、はたけ家の家を背景に写真を撮った。

サクモが真ん中でしゃがみ込み、カカシと●●●の肩を抱く。

「笑ってー」

●●●の母親がシャッターを押す。


「カカシ、2人でも撮ろうよ」

●●●はカカシと腕を組んで体をくっつけた。
カカシの身体に少し力が入ってるようだ。

目を細めて笑うカカシを見てサクモはニッコリ笑っている。

「焼き増ししてお渡ししますね」

「それは嬉しい。楽しみにしています」

●●●の両親とサクモは談笑をはじめた
休日に会うと大概こうなるのだ。

「今日はこれからどこかへ?」
「いえ特に。サクモさんとカカシくんに晴れ姿のお披露目に出てきただけで」
「それは光栄ですね」

そんな大人たちを横目にカカシはクナイの手入れの続きをはじめる。

●●●はそれを隣で見つめた。

「……クナイ…」

「危ないから触るなよ」

出来ることなら、
●●●にクナイを握ってほしくはない。
けれど、カカシも●●●も忍の家系。

将来的には忍になるだろう。

「私、明日から本格的に修行するんだって…だから今日はこんな綺麗な着物着せてもらったの」

「…そう」

短く返事をしてクナイを研ぐ。
修行で怪我しないといいけど、と思うだけで言えないカカシ。

「ね、カカシ」

「なに?」

「これあげる」

●●●は四つ葉のクローバーが入った栞をカカシに渡す。

「くれるの?」

「うん」

押花にされた四つ葉のクローバーが透明なプラスチックに挟まれていた。

そういえば数日前、庭で一緒に探したっけな。

そのときは見つからなかったが、
●●●は俺のために何日も探してくれたのかな。
そう思うと胸があったかくなった。
ありがと、と言うと●●●はニコリと笑った。

親たちはまだ談笑している。
父さんも楽しそうだ。

「じゃあ、俺からはこれ」

カカシはそばに置いてあった小さな紙袋を手にとる。

「●●●、手出して」

●●●は何かくれるのかなと思い、言われるがままに両手を出す。

カカシは●●●の手の上で紙袋をひっくり返した。
紙袋の中身がどてっと●●●の手に乗る。



「ひっっ……!」

それを見た●●●は息が止まった。

本気で驚いた時、人は声が出ないんだとこの時初めて知った。

●●●の手の中には大量のみみず。

目の前にはいつもと変わらない表情のカカシ。

「ほら、この間のダンゴムシのお返し」

●●●は両手のひらの中で蠢く冷たくて赤黒い物体を急いで投げ散らかす。

●●●がぎゃーぎゃーと大きな声で叫ぶので、何事か、とサクモと●●●の両親がこちらを向く。

「もー●●●、うるさいよ。たかがみみずでしょ」

カカシはやれやれ、とでも言うように肩をすくめる。

「ダンゴムシしか触れないの!」

涙目になった●●●は、自分の手から落ちたみみずを踏まないように慣れない下駄でぴょんぴょん跳ねる。
綺麗な着物を着ているけれどやっぱり●●●だ、とカカシは笑った。


「カカシ、●●●ちゃんどうかしたの?」

サクモがカカシと●●●に歩み寄り
●●●の足元に無数に広がる、みみずの大群を見つけた。


「カカシ…お前…だからさっき畑で長いこと…そうか…」

サクモはクナイの手入れをはじめる前のカカシの行動を思い出していた。
家の畑でしゃがみ込んで、紙袋にせっせとなにかを集めていた。

「父さん、感心してないで早く助けてあげたら」

「いやー、●●●ちゃん、ごめんね。カカシが…」


サクモは庭の隅で行き場を失った●●●に手を伸ばして、両脇に手を入れて抱き上げた


「この辺ならいないかな」



サクモはミミズがいない場所にストン、と●●●を降ろしてやる


「ありがとう、サクモさん」


みみずに驚いて涙目なままの●●●


「いえいえ。…カカシ、ちゃんと謝りなさい」


「虫が怖くて忍になれるの?」


「怖くないよ!苦手なだけ!」


「変わらないでしょ」




●●●の両親がじゃあそろそろ、と隣の家に帰って行く


「あ、私も」


カカシは走り出そうとする●●●の手を掴む

●●●はくるりとカカシを振り返る




「●●●、アカデミー落ちるなよ」

真剣な顔のカカシ

カカシも●●●も、もうすぐ入学試験だ


「うん!」



●●●は微笑みながら走り出し、カカシに手を振る

カカシの家の庭から隣の自宅への短い距離を走っていった
よく着物で走れるな



2人の様子を見ていたサクモがカカシの頭に手を乗せる


「優しいね、カカシ」


カカシは少し照れながら、●●●が家に入るのを確認し、サクモと自宅へ入っていった